第36章 危険な香りの温泉旅行 今夜は最高?
「この旅館って相当古い旅館らしいからね、そういうの出てもまぁおかしくないと言えばないよね。僕は全く怖くないけどさ」
平静を装おうチョロ松も、冷や汗を流している。
ナス子の作戦は見事成功しているようだが、当の本人も怖がってしまっている為意味を成していない気がした。
「まだ俺が話す?」
一松の裾を握ったままのナス子に一松がいつものようにボソリと喋るが、これ以上一松の怪談話を聞くと自分がギブアップしてしまうと思い、ナス子は一松の裾から手を離すと前のめりに座り自分が知っている話を披露する事にした。
「あのね、うちの職場なんだけど……男の子の幽霊がたまに出るらしくてね、それで霊感のある先輩が━━━━━━━」
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「~~~~~~~~っっ、うぅ、もう、もう聞きたくない、ていうか僕今日絶対寝れないよ」
相変わらずトド松は十四松に縋ったまま、ブルブルと体を震わせている。
やはり誰かの話を聞くのも楽しいが、自分で話した方が怖さもないので楽しいとナス子は思う。
「で、ナス子はその男の子見たの?」
だがしかし、一松は普通に怖がらず聞く。
相手が一松、仕方がない事である。
「ん、見た事ないけど急に髪引っ張られたりとか服の裾を引っ張られた事があるような?振り返ったら誰もいなかったから多分そうなのかなって」
「へぇ、でもナス子のいる職場って宿泊施設で海も近いんでしょ・・・?他にもいっぱいいるかもね?性質の悪いやつとかも・・・」
「?!」
今までそんな事を思った事がなかったナス子は得意な妄想で一気に恐怖が広がる。
しかも自分は深夜勤務で下手すると広い部屋に一人で暗闇の中での片付けなど行う事もある。
まさかの一松の反撃に何も言い返せず、鳥肌が立った。
「は、ハハハハ、そうだね。そういうのもいる、かも……」
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一番煩く怪談話を聞きたがるナス子が黙ると、他の全員も黙り、静かな空間がこの場に流れた。