第36章 危険な香りの温泉旅行 今夜は最高?
トド松に続きやっと口を開いた長男は次男を睨みつけると文句を言うも、ナス子のニヤニヤ視線に気づくと目を逸らしブツブツと言葉を付け足す。
「いや、別に俺怖くねぇし?ただなんかあったらヤだなーって思っただけだし!!怖くねえからな?!!」
「ひひひひひひ、そっかー怖くないんだ、ふーん」
「んだよ、笑ってんじゃねえよ!襲うぞコラ!」
おそ松のビビった表情にご満悦のナス子はどうぞどうぞと受け流し、次は一松を見た。
きっと一松はカラ松以上の話を持っているだろうと言う期待が高まり、一松との距離を縮めていく。
「なにナス子、近いんだけど……」
「あ、ごめん。楽しくってつい!一松の話ってほら、怖そうだから聞き逃さないようにって思って」
「あっそ、別にいいけどさ」
至近距離まで近づいたナス子を押しのける事はなく、一松はナス子を見下ろすとスマホの明かりを見る。
スゥっと息を吸って、雰囲気を出すようにゆっくりポツポツと語り始めた。
「これはまぁ、よくある話なんだけどこういう旅館ってさ━━━━━・・・」
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「いやああああああぁ、もうやめてぇ一松兄さん!僕心臓麻痺起こして死んじゃうんだけどぉ?!十四松兄さんなんとかしてえぇえ!!!」
「大丈夫だよ、トド松!この旅館もそういうのいたからっ」
「━━━━━━━━━━え?」
全くもってフォローになってないどころか問題発言を口にした十四松に皆の視線が釘付けになる。
「ああ、それなら俺も見たかも」
そして一松も同じく問題発言を吐く。
「え、こ、この旅館に?」
怪談好きのナス子も自分が泊まっている旅館に幽霊が出ると聞くとさすがに怖い。
ついつい部屋の周りを見回したり振り返ってしまう。
思わず一松の浴衣の裾を握ると、一松はニヤニヤとした表情でナス子をまた見下ろす。
「ヒヒっ……ナス子、怖くなってきたの?」
「べ、べべべ、別に」
部屋の中の温度が急に冷えてきた気がする。
怖い話をしていると、どうしてこう部屋の温度が低く感じるのだろうか……。
もし霊感のある人がいるのなら、この部屋には既に何かがいるとでも言ってきそうな雰囲気である。