第36章 危険な香りの温泉旅行 今夜は最高?
「やだ、嫌だ!ぼくは絶っ対に参加しないからね!いくら姉さんと兄さん達の頼みだとしても絶対に……」
「トド松ぅ~今度友達が合コン開きたいとか言ってたんだけどさぁ~」
ナス子が目を細めてトド松のいる布団のふくらみへと話しかけると、一瞬の速さでトド松は輪に加わった。
さすが童貞、いくら苦手な怪談話と言えど合コンという甘美な響きには逆らえないようだ。
「ちゃんとセッティングしてよね?!」
「うんうん、おっけーおっけ!」
合コンと言う言葉に他のメンバーもピクリと反応を示したが、それはもう全員に言うとオーディションだのなんだのがきっと始まってしまうと思い、話をナス子は無理やり戻す。
「もしかしてぇ、カラ松とおそ松は怖いのかなぁ?お兄ちゃん達なのに怖がってるのかー、そうかー、そうなのかぁ、楽しい団らんなのに残念だなぁ~~」
「フ……怪談話、か。受けて立とうじゃぁないか、決して俺は怖くない、怖くないぞ?怖いのは己の魅力……それのみだ」
「俺だって怖くねぇし!イタタタタ、カラ松あいっ変わらずイタイよぉ、お兄ちゃんアバラ折られちゃうよぉ」
次々と参加していく弟達に続き、次男、長男も仕方なく輪の中に入り混ざった。
「わはー、嬉しいなぁ。皆と一緒に怖い話出来るなんて!!どうする?私が話す?それとも一人一人と順番に回してく~?」
ウキウキのテンションでナス子が六つ子を見回す。
一松以外の六つ子達の顔には多少緊張が伺え、その表情にナス子の心は優越感に浸る。
昨日の件の事もあり、ずっと何か報復をしてやろうと思っていたナス子は、軽い事でありながらも怪談話で皆を怖がらせ、恐怖に落とし込もうと言う作戦を立てていた。
「ボク怖い話とか知らないよー?」
十四松が返事をする。
確かに十四松はそんな心霊体験などしていたとしても気づかずスルーしてしまうだろうし、誰かに話を聞いたとしても忘れてしまうのではないかと思った。
「俺はあるよ?いっぱいね……ヒヒッ」
一方の一松は下から照らされたスマホのライトで怪しく笑う、その表情が場の雰囲気を盛り上げ皆がゴクリと固唾を飲んだ。