第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
露天風呂がある入り口付近にある部屋、そこには3台のマッサージチェアーが置かれており、100円で15分間使用することが出来る。
浴室内にあるパウダールームで髪の毛を乾かしていると、昨日までは目に入らなかった、壁に貼られた紙の内容を見てマッサージチェアーの存在を知ったナス子は、歓喜して身支度をまとめると、その部屋へと足を運んだ。
仕切りはなく、宿泊者なら誰でも入れるようになっている。
ひょいっと頭だけ部屋の中に入れ中を見ると、鼻歌が聞こえる。そして鼻歌がマッサージチェアーのせいかブルブルしている。
どうやら先客がいるらしいが、椅子は3台あるので大丈夫だろう。
部屋の中に足を踏み入れ、タオル等の荷物を自分の使うチェアの側に置き、座る。
そして横を見ると、ブルブルした声で鼻歌を歌う男と目が合う。
いや、正確には、合った気がした。
「……カラ松……なんで、浴衣にグラサン……?室内でグラサン?」
「ああ、ナス子か……フッ……俺を照らすフルーレセンツライトが眩しくてな……」
「なんだって?」
「蛍光灯が眩しいんだ」
「そう言えよ」
チッ、とナス子が舌打ちを打つと、カラ松が頭を起こしてサングラスを頭上にズラしこちらを見てくる。
「ん~?どうしたんだナス子、ご機嫌斜めか?」
ずっとブルブルしていたカラ松の声が正常になる。
ナス子はマッサージチェアーの電源を入れると、正面を向いて返事をする。
「別に。さっきまでトド松にムカついてたけど、今はもう直ったし」
「トド松と喧嘩でもしたのか?」
「ううん、そうじゃないけど。ところで、カラ松一人なの?他のみんなは?」
「まだ温泉に入っているんじゃないか?俺だけ先に出たからわからないが、もしかしたらもう部屋に戻っているかもな」
「そっか~」
そこで会話は途切れ、8畳ほどの広さの部屋に、お互いのマッサージチェアーの機械音だけが静かに響く。
ナス子は目を閉じ、機械に身体を預ける。