第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
「あ、二人ともお帰り~」
「ただいま~……ってあれ?トド松だけ?」
ナス子に少し遅れて一松も部屋へと戻ると、中でだらだらゴロゴロしていた松達の姿はなく、トド松が一人広縁のソファに座りスマホをいじっていた。
「兄さん達は皆温泉入りに行ったよ」
「あ、そう……俺も行ってくるかな、ちょっと冷えたし……トド松は行かないの?」
「ボクは部屋の露天に入ったから」
「あ、そう……」
そう言って仕度を整えると、一松も部屋を出て行き、トド松と二人きりになる。
特に話すこともなく、お互い自分のスマホをいじり、部屋の中はしんと静まり返る。
そんな空間になんとなく居心地の悪さを感じるナス子。
今までこんなことを感じたことはなかったのに、やはり昨晩のことが尾を引いている。
一松と同じく少し冷えたし、自分も温泉に行けばよかったと後悔するが、後の祭り。
それに今から行こうにも、トド松を一人きりにしてしまうのは何だか悪い気がした。
「わぁ~!」
「あひゃい!!」
急に大きな声を出すトド松に驚き、おかしな奇声を上げてしまったナス子に、トド松が律儀に突っ込む。
「何その悲鳴……いい年した女の上げる声じゃないよね、引くわぁ」
「う、う、うるさいなっ!いきなり大きな声出したからビックリしちゃったの!なに?!」
心臓を抑えるナス子に、トド松がスマホの画面を見せつつ近づいてくる。
「見て見て、この写真~スッゴく上手に撮れてない?さすがぼくだよね~」
向けられた画面を覗き込むと、そこには気持ち良さそうにお湯に浸かりまったりしているカピバラたちの姿があった。
動物園で見た光景だが、トド松が自画自賛する通り、確かに上手に可愛く撮れている。
「カピバラだ~!可愛かったよねぇ~確かに上手に撮れてるっ」
褒めるとすぐ調子に乗るのであまり同意したくはなかったが、ここは事実なので素直に褒めておく。
トド松は嬉しそうに子供っぽくへへっと笑う。