第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
「可愛い~~っ、懐っこいねえ、この子」
旅館の正面玄関から出て、ぐるりと建物の裏側に差し掛かるかという場所に、その猫はいた。
そこは屋根が突き出ていて、雨を凌げる場所だった。
ダンボール箱を横倒しにした中に布が敷かれ、付近には餌箱も置いてあり、誰かがここで世話をしているのは明白だ。
「旅館の人が面倒見てるのかな?」
「多分そうだろうね……さっき売店で買ったニボシ、食べるかな」
「あげてみようよ、ちゃんと餌はもらってるみたいだけど、少しなら大丈夫だよね」
一松が袋からニボシを取り出し、目の前の猫に差し出してみると、くんくんと匂いを嗅いだ後、パクリとそれを口に入れ食べ始める。
可愛らしい猫の様子に、ナス子も一松も思わずニヤけ顔だ。
「ミケ子、いい子にしてるかなぁ……会いたくなってきちゃった」
「賢い子だし、大丈夫でしょ。それに、しょっちゅうLIMEきてるの、ミケ子預けてる友達からでしょ?」
「目敏いねぇ一松。そうなんだ~画像付きで一日に何度も連絡してくれるの」
言いながらスマホを取り出し、送られてきた画像を開く。
「これとか、見てっ、ミケ子顔にいっぱいご飯くっつけちゃってんの、すっごい可愛くない?!」
「どれ……うわ、ホントだ……可愛い……間違いない」
「あ、あとコレもっ、おもちゃを追いかけてる動画なんだけどね……あっ、これも可愛い……!コレも……全部可愛いっ……!」
キュンキュンと悶えながらスマホの画像や動画を次々見せてくるナス子の様子に、思わず一松は表情が緩む。
滅多に見れない一松の優しい笑顔を目撃し、ナス子は思わずスマホを持つ手が止まる。