第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
部屋に戻ると、出た時と変わらない光景が目の前に広がっていた。
皆が皆、部屋でゴロゴロぐだぐだ……旅行に来てもやっていることは普段と変わらない。
空いている場所に適当に座りスマホを取り出すが、何もする気が起きず、ホーム画面を何をするでもなく見ていると、ふいに影が差し、ひょいとスマホを取り上げられる。
「あ、ちょっと一松……何するの、返して」
「何も見てないじゃん。ゲーム……やらないなら、一緒に来る?」
今部屋に戻ってきたばかりなのだが、脈絡のない会話に思わず聞き返す。
一松の顔を見ると、何だか少し嬉しそうだ。
「猫のとこ……」
「猫?猫がいるの?どこ?」
ナス子にスマホを返しつつ、一松が窓の外のドシャ振りの雨を恨めしそうに見やる。
「昨日、十四松が外で見つけた野良猫なんだけど、どうやらここの旅館の周りを縄張りにしてるみたいなんだよね。この雨だし……見つかるかわかんないけど、行ってみる?」
「うん、行く!案内して、一松っ」
猫好き二人は、ペタペタと部屋を出て行く。
他の兄弟は誘っても来ないだろうと思ったし、来たいなら誘わずとも着いてくるはずなので、声はかけなかった。
そして当然のように、誰もついてくる事はなかった。