第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
それほど仲が良かった相手ではないのは確かだが、ここは相手に話を合わせることに決めた。
「出張で昨日の夜からここに泊まってるんだけど、朝帰ろうと思ったら午前中はドシャ振りだっていうからさ、少しゆっくりしてから帰ろうと思ってたところなんだ」
「そうなんだ、確かに雨が強く降ってるもんね」
「うん……ところで、こちらの方は、ナスの彼氏さん?」
「え?」
「ああ、そうだよ。俺松野おそ松でぇ~す、よろしくぅ」
ナス子が否定するより前に、おそ松に質問を肯定されたナス子は驚いて言い返そうとするが、ふと同級生の視線の先を追うと、自分がおそ松と恋人繋ぎをしていることを思い出し、ここで否定したらしたでなんか面倒臭いことになりそうだと思い、ぐっと堪える、
「ああ、やっぱり。手ぇ繋いで仲良さそうに歩いてるからすぐわかったよ。俺は今は仕事が恋人になっちゃってるから羨ましいな……ところで、松野って……もしかして、六つ子の?あの近所で有名だった」
「俺達ってそんなに有名だったのぉ?知らなかったぁ~まぁでも六つ子なんてそうそういないもんね。そうそう、その松野」
「へぇ、まさかナスが六つ子の一人と付き合ってるなんてなぁ、ふふ、ちゃんと見分けはついてるのか?」
この同級生、とても良い人そうなのだが、やはりどうしても名前が出てこないナス子は心の中ですいませんと謝るばかり。
見分けがついてるのか、という言葉におそ松の手がピクリと反応してほんの一瞬だけ不穏な気配がして、同級生に向けていた視線をおそ松へと移す。
だが、おそ松は笑っていた。
特に機嫌を悪くした様子もなく、ほっとする。
「俺らラブラブなんだよねぇ、たまには温泉でしっぽりと……ってさぁ~、昨日も二人で熱~い夜を過ごしたよなぁ?ナス子~、俺ら幼馴染でもあるから、今更見分けがつかないなんてことないない、ありえないって」
もしや、コイツ本当は昨晩のことを覚えているのでは、もしくは何か思い出したのではと思い一瞬ギクリと身を強張らせる。
が、おそ松の様子はただお茶ら気ているだけであって、そこに怪しい含みはなく、ただ勝ち組を取って気取りたいだけという様子が見て取れたので、繋がれた指にぐっと力を入れおそ松の手の甲に爪を立て足を踏みしだく。