第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
広いと言うには物足りない規模の旅館の中を、おそ松とナス子はあてもなく歩いていた。
掴まれていた腕は、いつの間にか手を繋ぐという形で落ち着いており、ナス子が離そうにも強く指を絡められて、離すことは出来ない。
なんとも落ち着かないナス子だが、そんなナス子の様子は気にも留めていないおそ松は、鼻歌混じりで何やらご機嫌である。
「ねぇ……どこ行くの?手……繋いで歩く必要ある?」
「あるでしょ、俺ら今デート中よ?デートって言ったら手ぇ繋ぐでしょ、常識でしょお?」
「……それにしても、普通に繋げばいいと思うんだけど」
「デートって言ったら恋人繋ぎでしょ、これも常識だろぉ?」
二人は恋人でも何でもないのだが、そんなことを言われるとまた変に意識してしまって、更に落ち着かなくなり、手が熱くなる。
じっとりと手汗を掻いてしまっていることで、何かを悟られるのではと、ふと心配になった。
「こ……恋人じゃないでしょ、私達……っ」
「そういう細かいこと気にするの俺嫌~い!楽しければよし!」
ニカリといつもの笑顔を向けられ、思わず一瞬瞠目してしまうが、すぐに溜め息をついて視線を逸らす。
「は━━━━━…………テキトー馬鹿……」
「いやお前に言われたくはないけどねっ?」
「━━━もしかして、ナス?」
「は?」
突然聞こえてきた第三者の声に、思わず素で返事をしてしまうナス子。
隣にいたおそ松も、声のした方に視線を移すと、そこには一人の男性が立っていた。
一階のロビー方面に繋がる廊下、けして広くはない道幅ですれ違った男性に声をかけられ、おそ松は表情はそのままに繋いだ手を引いてナス子を気持ち自分の後ろに下がらす。
「やっぱり、ナスだよな。どこかで聞いた声だなと思って。俺、わかる?」
「……えっと━━━━……ひ、久しぶり!」
「久しぶりっ、高校卒業して以来だよなぁ。まさかこんな所で昔の同級生に会うなんて思わなかったよ」
「そ、そうだね!私も!こんなこともあるんだねぇ!」
どうやら高校の時同じクラスだった同級生らしいのだが、失礼なことに、ナス子は相手のことをなんとなく程度にしか思い出せず、苗字も名前も全然出てこない。