第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
スマホを見ているトド松が、横になり肩肘をついたまま一松の突っ込みに蛇足を入れる。
「同性も惚れ惚れするような艶のある美男美女に使われる表現だけど、ナス子姉からはほど遠いよねぇ」
「フッ……なるほど、俺のような男の為にある言葉というこ」
「あ、なんか急に熱が冷めたわ」
「えっ」
すん、とした表情でナス子はテーブルまで戻ってくると、先ほど零してしまった湯呑みに新たなお茶を淹れて一口啜ると、ふ~と落ち着いた息を吐き、カラ松におばあちゃんのような笑顔で微笑みかける。
「ありがとう、カラ松……カラ松がイタイ子で……私嬉しいよ……」
「え……ええ……?あ、ああ……そうなのか……よかった」
穏やかな顔で微笑みながらそう言うナス子に困惑しつつ、嬉しいのならいいかと生返事をするカラ松。
「カラ松がイタイのなんて、今に始まったことじゃないだろぉ?そーれーよーりーぃ!ねぇナス子~俺暇なんだよぉ~超超暇なのっ、どうしたらいいと思う~?」
「そこらへんで死んだふりでも極めることに集中したらいいんじゃないかな?」
おばあちゃんの笑顔を浮かべたままそう言うナス子に、腐った魚の目を向けるおそ松。
「おそ松兄さんゾンビになるの?!ぼくもなる!!」
「なるかっ!!おいっナス子!なんだよそれっ、俺そういうこと言ってるんじゃないんだけど!」
そう言って立ち上がると、急にナス子の腕を掴むおそ松に、せっかく隠居したおばあちゃんのように落ち着いていた心臓がまたも高まる。
掴まれた場所が熱く感じるのは、気のせいではないだろう。
「よし決めたー!今日は旅館を極める日!おそ松くんと旅館デートをするの巻!ってことで、行くぞ!」
「え゛、ちょ、ちょちょちょっと!!」
強引に腕を引っ張られ、おそ松に引きずられるようにして部屋を後にする。
いつもなら、着いて行くだの、ズルいだのと騒ぐ兄弟達が、今は既に完全にダラけモードなのか、誰一人として後を追ってくる者はいなかった。