第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
「え?あ、そ、そう?あははは、朝部屋の露天入ったから、まだ身体が暖まってるのかもっ……あ、朝ご飯にジンジャーティーも飲んだし……」
部屋の露天に入ったのは本当だが、ジンジャーティーなど飲んではいない。
生姜イコール身体が温まるという世間の常識を盾に、口からついて出た言葉だった。
二人のやりとりを見てそれまで大人しくチョロ松の後方で寛いでいたおそ松が聞き逃す事なく会話を拾い参加する。
「えー、露天入っちゃったの?!俺と入ろうって言ってたのに!」
「言ってないから!さも約束してたかのように言わないで?!」
「約束してたよぉ~、なんだよ薄情なヤツぅ……ってかホントに顔赤くない?ジンジャーってそんな顔赤くなんの?」
おそ松が自分の額を押えながらナス子の額に手をあてようと手を伸ばすと、それを両手で挟んで制止する。
「なんだよっ」
「熱なんてないってばっ……今日ちょっと暑いから」
「ナス子、今日は雨で外は冷えているらしいぞ?やはり熱が」
窓際スペースの広縁のソファに座り、外を眺めていたカラ松が振り向きそう言って、ナス子に心配そうな顔を向ける。
その表情に、何故か心臓がドクリと一度鈍く脈打つ。
それさえも気のせいにしたいナス子は、ぶんぶんと顔を横に振り、カラ松の言葉を遮って否定する。
「な、ない!!熱なんてないってば!ホントに、ちょっと顔が火照っちゃってるだけだから……っ」
そう言ってすくりと立ち上がりドアの方へと歩みを進めるナス子に、十四松の元気のいい声がかかる。
「姉さんどっか行くの?外は雨だよ?結構降ってるよー!」
「あ、そ、そうなんだ!で、でも、火照った顔を冷ますのにはいいかもだからっ、私ちょっと外に……ほ、ほら、雨も滴るいい女っていうしっ」
「それを言うなら水も滴るいい女……でしょ、やっぱり馬鹿だねナス子」
意外な人物から修正という名のツッコミが入り、うぐぅと息を詰めるナス子。
雨だって水なんだから同じじゃないか・・・と心の中で反論するが、それも頭が悪そうなのでやめた。