第33章 危険な香りの温泉旅行 王道パターン発動
部屋中に響き渡ったナス子の大きな声が目覚まし代わりとなり、他の兄弟達も続々と目を覚ます。
「なんだよナス子、あ、もしかして俺の寝こみでも襲うつもりだったのぉ?いや襲われたか、実際に。でもさぁ、襲うならもっと色気のある襲い方がいいんだけどぉ?」
本当にいつもとまったく変わらない様子でニヤついた表情を見せるおそ松に、怒りが込み上げ再度拳にぐっと力が入る。
「ん~、モーニンシスター……よく眠れたか?昨晩はお前が隣の部屋に一人きりで寂しそうだったから、俺が運んできてやったぜぇ」
「おい、朝から煩ぇぞクソ松……おはよう、ナス子」
目を覚ましこちらに挨拶をしてくるカラ松と一松にも、変わった様子は見られない。
清々しいほどにいつもと同じ態度、いつもと同じ口調である。
「あー……頭痛い……完全に二日酔いだよコレ……昨日の事全っ然思い出せないや。飯食った後、僕ら何してたっけ……」
顔色の悪いチョロ松が、誰に話しかけるでもなく、独り言のように出した言葉に、ナス子は唖然とする。
「記憶が飛ぶなんて珍しいよね、いつもよりだいぶ飲みすぎちゃったかなぁ?」
「あはは、調子ノリすぎたぁ~!ぼくも全然覚えてナッシーング」
酒に酔い、自我を失い、終いには酔い潰れる。
『昨夜の事は何も記憶がございません』という王道パターンは、ナス子ではなく、まさかの六つ子側に適応されていたのである。
やられた方は全部覚えていて、やったほうは全部忘れる。
これもよく聞く話だが、それとは少し状況が違う。
正直、六つ子達とどんな顔をして接したらいいのかわからなかったナス子は、ほっとした部分が大きい。
……が、何も覚えていないのは、それはそれで何だか腹が立ったのも事実だった。
なんと都合の良い脳をしているのか。
俯き、遠い目をして一点を見つめたまま完全に動きが停止したナス子に、またもおそ松が茶々を入れる。
「なんだよナス子、怖い顔しちゃってさ~もしかしてあの日ぃ?」
「……っ死ね!おそ松!!」
おそ松の言葉に我を取り戻したナス子は、キッと目つきを鋭くして言い放つ。