第1章 平穏な日々に嵐はやってくる~おそ松~
突然至近距離から聞こえる悪魔の声に飛び起き声の方を見ると、隣でうんこ座りしながら頬杖をつく赤いパーカーを着たおそ松の姿がそこにあった。
「は?! はぁあああああああああああああ?!!!!」
私がパクパクと口を開きながら大声で叫ぶ。
相手は迷惑そうに両手を耳で塞ぎ口を開いた。
「だーかーらー、もう昼だーっ、って言ってんのー! っていうかうるせぇな。ご近所様に迷惑だろうがっ」
「いやいやいやいやいや、お前が言うな! こんなまっ昼間の平日から人の家の扉ドンドンガンガン叩いて大声上げといてどっちが近所めいわ…」
こっちが口を開くとおそ松は両耳から手を放し体制を胡坐に変えている。
お決まりの表情で二ィっと歯を見せて笑んだ。
「なぁ~んだ、俺が来たのわかってんじゃーん。もしかして起きてたけど無視かましてたの? ん? ん~?」
そのニヤニヤ笑いとこっちの行動が読まれている事に腹が立つというか、ご立派というか、さすが長い付き合いなだけはある。
あーもー、最悪。
ってそうじゃない!突っ込む所はそこじゃない!!
「な、なんであんた私の家の中に無断で入ってきてるの?不法侵入なんですけど?! 鍵かけてたんだけど!? 意味不明なんだけど??!」
「かーっ、相変わらず声でけぇな。 えー?可愛い弟君にそんな事言うのナス子姉、これなーんだ♪」
してやったりのニヤニヤ表情のまま、片手でプラプラと揺れる銀色の物体。
「か、ぎ? まっ、まさか……そっそれ」
「お前にしては冴えてんじゃーん!んじゃ、ご褒美に教えてやろう! これは俺ら六つ子が手に入れたこの部屋の鍵! んなははは」
目が点になるとはこの事だろうか、何故コイツが私の家の鍵を持っているのだ。
鍵は・・・自分が持っているのと、この部屋を借りた時に渡されたスペアキーしかないはずだ。
スペアキーはちゃんと仕舞ってある、多分。・・・どこだっけ・・・忘れたけど、棚に仕舞ったのは覚えてる。
とにかく頭の整理がつかない。
よし、寝よう。
夢だこれ、休みに浮かれて見ちゃった悪夢か何かだわ。
―ナス子 は 現実を放棄した―