第29章 危険な香りの温泉旅行 たまにはお姉ちゃん？

「十四松、ほら、今度はあんたの番だよ？おいで～」

「わーい！お邪魔しマッスルマッスル」

　勢いよくナス子の膝の上に滑り込む十四松が顔を見上げ満面の笑みで見て来るのだが、先程の温泉の事を思うと途端に恥ずかしくなる訳で……ナス子はぎこちなく視線を泳がせて十四松の髪を撫でる。

　が、その感触がしっとりとしている事に気が付いた。

「あ、髪の毛ちゃんと乾かしてなかったでしょ？」

「ちゃんと乾かしたよ、タオルでガーっと！」

「それはちゃんと乾かしたとは言いません！もーっ、私の膝が濡れる！」

「そこ？！」

「そこだよ！私だって乾かすの面倒な時いっぱいあるし。仕方ないなぁ今日だけサービスしてあげるよ。カラ松、タオル一枚とってくれる？」

　最初は膝枕を羨ましそうに見ていたカラ松だったが、今は他の兄弟達にタオルをかけてやっている。

「フフーン、おやすい御用さぁ、なんなら俺がお前を包み込むバスタオルになってやってもいいんだぜぇ？」

「結構ですー」

　一言言い返すと、受け取ったタオルで十四松の髪を乾かす。
　ドライヤーで本当は乾かしたいが、皆が疲れて寝ているのを音で起こすのも何か忍びなかったからだ。

「ちゃんと拭かないと風邪ひくよ、十四松」

「あはは、でも姉さんだって乾かさない事あるでしょぉ？……あ！さっきと逆だね姉さん！」

「じゅ、十四松っ！しーっ！」

「あいっ」

　十四松と混浴で起きた事は心底恥ずかしかったが、だからと言って十四松を避けたいとも嫌いだとも思わなかった自分が不思議で仕方ないとナス子は思う。
　
　おそ松と最初にキスをしてしまった時はあんなに混乱したのに、どうしてか全員ひっくるめて同じ気持ちなのだ。
　チョロ松の最初の助言ならぬ説明もあってか、そういうものなのだろうとも思えてくる。
　また……麻痺と言われればそれで終いなのだが、キョウダイのような関係であり幼馴染であり、どちらにしても離れたくはない相手ではある。