第29章 危険な香りの温泉旅行 たまにはお姉ちゃん?
「いいよ、トド松。おそ松が退いたら今度はトド松ね?」
「え、え!?いいの?!あんなに煩くて触るとすぐ暴力を振るって訴えてくるナス子姉がそんなに素直なんて、一体どうしたのぉ!!?」
「・・・別に、嫌ならいいんですけど」
言われた言葉に目を細めてナス子がトド松を睨むと、トド松は大袈裟に首を振った。
「お、お願いします!!」
「俺も志願しよう!傷ついたナイトを癒すミューズの園……、パワーポイントに身体を静めるにふさわしい男だとは思わないか?」
「もう、ほんっとイッタイよねぇカラ松兄さんは!」
「だったら僕だって今日健闘したんだけど?膝枕だって僕に与えられてもいいと思うんだよね」
くわえてチョロ松も上げ切らない手を中間まであげて志願し、次はと一松も名乗りをあげる。
「俺だって運転して帰った訳だし・・・す、少しくらい・・・」
「はいはい、皆順番ね?」
旅行でのセクハラの嵐で戸惑っていたナス子だが、自分の膝枕を争われると、先ほどまで意識してしまった"男"に見えていた松達が、やはり弟のように見えてくる。
そんな感覚に嬉しくなった。
「ただいマーッスル!!!」
膝枕の話をしていると元気よく十四松が返ってくる。
浴衣の着方がおかしく、チョロ松にそれを直してもらった。
「十四松、お前どこ行ってたの・・・?風呂にもいなかったし」
「え、温泉入ったよー!」
ピクリとナス子が反応すると、既に寝てしまったおそ松を起こさないようにしながら指を口の前に当てて十四松を見る。
目から伝わる感情は 言うな!言うんじゃないぞ!!言ったらお前わかるな?!マジわかるよな?! とでも言っているようだ。
「あぁ」
空気も含まれているような間抜けな「あぁ」に十四松は目だけ横を向いて考えると、ナス子に向かってニパリとした。
そして指を唇にあて、同じ動作をする。
どうやらナス子のテレパシーは十四松に届いたようだった。
安堵するナス子と笑っている十四松を怪しそうに見つめる一行だったが、疲れている為か誰一人その事に関して触れる事はなかった。