第29章 危険な香りの温泉旅行 たまにはお姉ちゃん？

　
　夕食までの時間、ナス子の膝は予約が入り、わざわざ一人一人のタイムまで設ける事となった。

「ちぇー、なんだよ俺の枕だったのにぃ」

　ぶすくれるおそ松は、珍しく乱入しようとはしなかったが、素直に退く事はなくナス子の背に寄りかかっている。

「おそ松、重い」

「こんくらいいいだろ？他の弟達に膝譲ってやったんだからさぁ」

「いつもだったら引っぺがすけどね、今日だけは大目にみますよ～」

「かーっ、冷たいねぇ」

「ナス子姉、今はおそ松兄さんなんか相手してないでぼくを見て欲しいな」

　今膝に頭を乗せているのはトド松、膝枕の順番は公平に行われたジャンケンにて決められた。
　勿論十四松も参加している。

　膝の上からまっすぐナス子の顔を見上げるトド松は、末っ子って感じで可愛い。
　今朝のエロッティとは大違いだ。
　いつもこうなら本当可愛くていい弟なのにな、とナス子は思ったが、そんな真っ当な松野家の六つ子は一人もいないと考え直した。

「トド松、よしよし」

　髪を梳くように優しくトド松の頭に触れると気持ちよさそうに目を瞑る。
　
「このくらいの厚みのある枕って丁度良くっていいよねぇ」

「トド松、ヨシヨシ」

　また余計な一言を付け足す末っ子に容赦なく指に力を込めた。

「わー、ごめん！ごめんなさいっ」

「わかってるなら言わなきゃいいのに、ペッ」

「ペッって･･･はぁ、やっぱり女の子らしさに欠けるよねぇナス子姉。もうちょっと優しい、お姉さんらしい対応は出来ないの？」

「うっ」

　そう言われてみると、自分はあまり姉のような振る舞いをしていないようにも思えてくる。
　ナス子は一瞬身じろいだが、大人しくまたトド松の頭を撫ではじめた。

「ごめんなさいねぇ、女の子らしくないお姉ちゃんでぇ～」

「ま、もう慣れっこだけどねこんなのもさ」

　トド松の頭を撫でていると数分してトド松が寝てしまった為、起こさないよう頭を膝から下した。
　おそ松は相変わらずナス子に寄りかかっているが、後ろから寝息の音が聞こえる。