第27章 危険な香りの温泉旅行 動物園に行きました カラ松
「へ?」
一瞬の出来事に目を開けると、猿は後ろの小さな窓を抜けてトイレから素早く出て行った。
「な、な、なんだったのぉ~~~~~?!」
あまりの緊張から恐怖が去るとヘタリと腰を抜かし床に座り込む。
足が震えて力が出ず、ただただ涙が出そうになった。
「ナス子、ナス子!!何かあったのか?!」
その時、外から心配そうな声が聞こえてくる。カラ松だ。
ナス子もその知っている人物の声に気づくが、動くことが出来ず返事も出来る様子でもなく、口だけパクパクさせている。
ただ、その声に安心すると押さえた涙腺が緩んで行くのを感じた。
「・・・ひっ・・・う・・・っ」
早くカラ松の顔が見たくて、ナス子は腰が立たないまま這いずって外に出て行くと、その様子をやっと発見したカラ松がナス子の所に走り寄る。
「ナス子?一体なにがあったと言うんだ、その様子は・・・」
「カラ松ぅ~~~、うぇ・・・げほぉ・・・うっ・・・ひっく・・・」
やっと安心出来たナス子はダムが決壊したように嗚咽交じりで涙と鼻水ダラダラの状態になり、屈んで顔を覗き込んでくれるカラ松の首に手を回すと、思い切り抱き着いた。
「カラ松ーーーーっ、こ゛わ゛がっだよぉーーーっ、おぇっ」
「よしよし、俺が来たからにはもう大丈夫だ、安心しろ」
カラ松は汚いナス子を強く抱き返すと、安心させるようにポンポンと背中を叩く。
その温かさに安堵し、少し気持ちを落ち着かせたナス子はポツポツと喋り出す。
「さ・・・さる・・・が」
「んん?猿?」
「猿が去る・・・・」
「ナス子、お前今はそんな冗談言っている状態ではないだろう、何があった?」
混乱したナス子はとにかく心に思った事を口に出したが、アッサリとボケはスルーされてしまった。
いや、だがしかしそんなカラ松の言う通り、今はそんな状態ではないのだ。
「う・・・ごめん・・・っ・・・放送の猿が、トイレに・・・」
やっと事実を告げるとまた恐怖を思い出す。
体はブルブルと震え、抱きしめる体に力が入り、更にカラ松へと強くしがみつく。