第24章 危険な香りの温泉旅行 夜の海 チョロ松
「ねぇ、チョロ松」
「なんだよ」
「あのね、一松にもちゅーされたんだけど」
瞬間チョロ松の心臓がドキリと大きく跳ねたが、こんな時に動揺している自分を見せるのも恰好悪いと思い、いつものテンションでナス子に言葉を返す。
「~~~~~~はぁ?!てか何?この流れでその報告?!」
「いや、チョロ松には言っておこうと思って?」
「なっ、なんで僕にそんな事・・・っ」
「んー、チョロ松だからかなぁ?」
二人で月を眺めながらの会話、優しい月明かりのせいか、いつもより二人の間はゆったりした会話に聞こえてくるようにも思える。
「あのね、多分なんだけどさ!アイツら私の事を脱童貞の練習台にしようとしてるんだと思うのさ」
「脱童貞?!なんっだ、それ???!」
「勘」
「勘ねぇ・・・・・・」
チョロ松は口をヘの字にし、眉を顰めると目を細めナス子を見下ろす。
その勘は間違っているのではと六つ子の一人でもあるチョロ松は思ったが、ここで「違う」と言ってしまえば、またナス子の心を揺さぶる事になると思い、下手な事は言わないでおこうと決めた。
ただ、どんな感情かはわからないが、兄弟の中でのナス子の存在が明らかに昔と変わってきているという事だけはわかった。
そして、自分自身も。
ただそのよくわからない気持ちの悪い何かが、まるで喉から出かかっているものをずっと吐き出せずに燻っているような感覚に、チョロ松は気づいていた。
この感情はなんだろう?とずっと考えているが、未だチョロ松の中でその正解は見つかっていない。
童貞こじらせキャラの自分が理解するのは、とても難解な事なのかもしれない。
そんな事を考えていると、月に向けられていたナス子の視線がコチラに向き、二人の視線がぶつかった。