第16章 ヤケクソ療法? カラ松 チョロ松 ※多少シリアスが含まれます
「じゃあキスするけど、逃げないでね?」
「逃ゲナイ」
とても今からキスをする男女の雰囲気ではない。
注射打つけど逃げないでね、頑張ります、そんな一連の会話のようだ。
「目ぇ閉じてくれる?」
「ハイ・・・」
まるで機械のように返事をするナス子は言われた通りに目を閉じる。
ナス子の願いはもはやただ一つ。
一刻も早くこの状況から脱したい、それだけだった。
チョロ松はゆっくり身体をナス子に近づけると、ぽん、と軽く肩に手を置いた。
なんてことはない動作だったが、ナス子の身体は僅かに強張る。
その刹那、唇に柔らかい感触がしたが、それはあっという間の出来事で、思わずナス子は閉じた瞳を開けてしまった。
「え?あ・・・お、終わり?」
「うん。何?もっとしてほしいの?」
目を開けるとそこには、なんてことないいつもと同じ呆れ顔をしたチョロ松がいた。
言われた言葉に返事をしようと口を開こうとしたが、そこにもう一度チョロ松の唇が触れる。
それはまたすぐに離れ、ナス子の顔を覗きこんでくる。
「どう?何か感じる?」
小首を傾げながらそう聞いてくるチョロ松。
そこに興奮とか色情とか、そういった類の感情や空気はまったくなく、まるで何かの実験でもしているかのようにサラっとした口調だ。
「い、いや・・・何も感じない、かな・・・?う、う~ん、いや、キス・・・だなぁっていうか・・・」
「でしょ?なんてことないでしょ?そんなもんなんだよ。だって姉弟みたいなものなんだし、男とか女とか関係ないでしょ。気持ち悪いと思わないだけマシじゃない?なんだったら、僕は若干だけど思ってるけどね。近親相姦物は好きじゃないんだよなぁ・・・」
はぁ~と溜め息をつき肩を竦めるチョロ松。
そんな目の前の相手を見ていたら、ナス子の体から力が抜けていく。
ぺたりと床にへたり込み、どこを見ているでもなく視線を一点に集中させると、ゆっくりと息を吸い込む。