第101章 【逆ハールート:短編】彼らの場合
「ねぇ、ナス子姉」
「魂胆が見え見えだなお前は」
姉と呼ばれればすぐに言いたい事が伝わる。
こんなツーカーの仲は嬉しくもないが、チョロ松の今の気持ちは痛い程わかる。
しょうがないな、なんて思いながら値段を確認しようとチョロ松の持つ本に手を伸ばすと、急に真顔になったチョロ松が言葉を捲し立て始めた。
「あのさ……この本屋に行こうって言ったのはナス子姉さんだよね? それにイベントだって迷ってた本を買っちゃえ買っちゃえって煽ってたのもナス子姉さんだし、僕の金がなくなったり、こうやって欲しかった本を見つけちゃった責任はナス子姉さんにもあると思うんだ。あぁ、それに荷物いっぱい持って肩が痛くなってきたなぁ」
「…………」
「他にもだよ? イベントで迷子になったナス子姉さんを案内したり、買い物が終わった僕に代わりにサークルに並ばせて代理購入させてたよね? あれも有難い事だと思うんだよ。あれがなければもしかしたら売り切れてたかもしれないしさ」
急にチョロ松のライジングが始まる。
一言どころか何言も余計な言葉になっているが、チョロ松はそれがただ悪い方向に向かっている事には気づいていない。
「チョロ松」
「うん、なに?」
「帰ろうか」
にっこりと微笑むナス子は、伸ばした手を引っ込めてチョロ松に笑顔を向ける。
「ちょ、ちょっと待って! 今買わないと売り切れるかも……っ」
「そうだねぇ、残念だねぇ。その本、棚に戻そうかぁ」
手を伸ばし、ナス子が無理やり本棚にそれを戻そうとすると、急に口が閉じてチョロ松が喚く。