第89章 【おそ松ルート】怪我の功名塞翁が馬
本当に大した事故ではなかったのだが、恐らく伝わった情報が不十分で心配させてしまったのだろう。
おそ松には悪いと思うが、嬉しくて顔が自然とニヤけてしまう。
「笑ってんじゃねーっつの」
「いやぁ~愛されてるなぁ~って思ってさ……怪我の功名とはこのことですな」
ニヤつきが戻らない顔を両手で抑えるが、やはり上がった口端は戻らない。
自分の頬を自分でむにむにと揉んでいると、その手におそ松の手が重ねられ、顔をサンドイッチの具扱いのごとく挟まれる。
そしてかなり顔を近づけられ、真正面から視線を捕らえられる。
もう怒ってはいないようだが、まだなんとなく微妙そうな表情をしたおそ松がそこにはいた。
自分の表情というか、顔は今どうなっているかは絶対鏡とか見たくないが。
「おばさんから事故ったって聞かされてから、さっきお前の顔見るまで……生きた心地しなかった」
「……ふぉふぇん」
「なんて言ってるかわかんねーしっ」
「だふぁらゴふぇンってふぃっ」
ナス子がなんと言っているか、おわかりいただけただろうか。
だがおそ松にはそんなことは関係なく、縦に潰れたナス子の顔に自分の顔をさらに近づけ、その唇を重ねる。
「…………ブッサイク!」
「! ふぁんふぁあひゃっへるんでひょっ、ひーふぁげん……っ離せー!」
自分の手と一緒に顔を挟まれていたので払いのけることが出来ず、体と首を捻って自力でおそ松の手を振りほどく。