第89章 【おそ松ルート】怪我の功名塞翁が馬
「て、ていうかっ……やめてよね、ここ病室だし……カーテンで仕切られてるとはいえ向かいに人いるんだからっ……」
ボソボソと小声でそう言うが、おそ松はどこ吹く風。
「お前が騒がなければナニしたってわかりゃしないってぇ」
「しー! バカっ、だから声が大きいって……! ちょっ、なんでベッドに乗ってくるっ」
「……俺、今回はマジでホントに、心配したし、怖かったんだけど……お前が……ナス子が……いなくなっちまうと思ったら……っ」
「おそ松……」
ナス子を抱き寄せ、自分の腕の中に大事そうにしまうと、肩に顔をうずめてくぐもった声でそういうおそ松の表情はナス子には見えなかったが、それは切羽詰まったような、聞いているほうが苦しくなるような声色で、ナス子もおそ松の背に手を回して強く抱きしめ返す。
「ごめんねおそ松……大丈夫、私元気だし、安心して? ホントに………って、オイ」
「もうお前に触れられなくなるのかって思ったら……っ」
「おいおいコラコラぁ? ちょっ、どさくさに紛れて服の中に手を入れるなブラのホックを外すなー!」
「これももう外せなくなるのかと思ったら……っ」
「うるせー! ホントに一生外せなくしてやろうか!?」
病院のシングルベッドよりも狭いベッドの上。
二人乗ることは想定されていない作りのベッドがギチギチと音を立てる。
これはもうカーテンの向こうにも確実に聞こえている。
いや音だけでなく声も聞こえているだろう。
こんな薄いカーテンでは、防音性は限りなくゼロに近いというかゼロだ。
だがそんな状況で、ナス子の必死の抵抗にもおそ松の手は止まらない。