第85章 【一松ルート】松野一松の希求
「ねぇ、ナス子……」
「ぐわっ、ちょっと待って一松……っスキルが……! ああっ、死んだー」
「例えば、俺が死んだらさ……ナス子困る?」
あ、なんかナス子のやってるゲームとタイミングいい感じになっちゃった。まぁいいかそんなことは。
突然そんなことを聞かれたナス子は、当然鳩が豆鉄砲くらったような顔をして俺を見る。
「困る」
「……困らないでしょ、別に。だって俺ニートだし……なんも社会の役に立ってない、むしろ社会に迷惑かけてるクズですよ?」
「困るってば」
「それってさぁ、困るじゃなくて、悲しいの間違いなんじゃない」
多分、っていうか、これは自惚れなのかもしれないけど、俺が死んだらナス子は悲しいと、泣いてくれるとは思ってる。
でもさ、困ると悲しいは違うよね。
悲しくても、俺がいなくなって困ることは何もない。
部屋が広くなる、空気中の酸素量が多くなる、食い扶持が増える、布団が広くなる、ほらね、良いことはまだまだ沢山ポンポン出てくるけど、逆は出てこないでしょ。
俺にそう指摘されたナス子も、言葉を失ったかのように俺を凝視して動かなくなってしまった。
「……ごめん、別に他意はないから、気にしないで」
「一松、違うよ。悲しいし、困るよ」
「だから……」
ああ、またこんなガキみたいなことを言って、ナス子を困らせる。
別に困るって言ってほしいわけじゃなくて……いや、もし仮に本気で言っているならそれは勿論嬉しいけど、何をどう考えてもナス子が困る理由なんて見当もつかない。
「だって……一松が死んだら、私、もう生きていけないもん」