第81章 【十四松ルート】ステイ
今度は両手をつきだして思いっきり突っ張られる腕。
隙間の空いた距離から寂しさを感じナス子は口を開く。
「ねぇ、もしかして私、十四松に何か嫌な事とかした?」
十四松の両手を退かして、それでも諦めずににじりにじりと詰め寄る。
だが近づきたい相手はまた下がって行く一方だ。
「してない! してないよ!! でもっ……わ! 姉さん!!」
「うりゃ!」
目の前にいる黄色い男を捕まえようと両手で抱き込もうと襲うのだが、瞬発力のある彼は瞬時にそれを避けていく。
「……ぬ、やるな十四松」
「ああぁ……だから、そのぅ」
この現状は一体何だろうか。
十四松を窓際まで追い詰めて、彼女は両手をワキワキとさせている。
目の前の獲物を捕まえようとまるで猫のように目を光らせた。
「とりゃっ」
「そりゃ━━━━━━━━━━っ!」
宙高く自分を飛び越えてしまう十四松はナス子を跳び箱にでもするかのように跳ねてしまう。
その反動で床に突っ伏す彼女は先程まで眠かった事など忘れ立ち上がりまた逃げる彼と向き合った。
「ぐぬぬぬ……今日は一体なんの遊びなのこれぇ」
「遊びじゃない! 遊びじゃないんだってばあぁぁぁ」
その後も、ドタバタと下階にお住みの方にはとても申し訳ないのだが、騒がしく音が部屋の床に響きその音が二人の格闘の凄まじさを物語っていた。
「ぜぇ……はぁ、はぁ……っさすが十四松。すばしっこいなぁ。お前はいつから犬から猫属性に変わったのだーっ」
「姉さんが諦めが悪いんだよぉ!! もう、だからそうじゃなくって、うわっ」
「あー、くそ! また逃げられた……往生際が悪いぞ、じゅうしまぁつ」
「悪いのはボクだからっ、だから今は少しだけ離れよう? ね?!」
ダボダボの袖を片方口に当てて、もう片方の手はコチラにステイするかのように突き出される。
いつもはコチラがステイをさせている事が多いのに逆にやられると不思議な感覚だ。