第81章 【十四松ルート】ステイ
「いずれこう言うかもよ~? ”私もう十四松の体力に付いていけないから無理、別れましょう”ってさぁ~……なぁんて━━あれ? 十四松兄さんは?」
冗談交じりにケラケラと笑うトド松が十四松を茶化していたが、一瞬眼を瞑って笑い、その一瞬ですぐ眼を開けたのにも関わらず目の前の兄がテレポートでもしたかのようにその姿を消していてキョトンとする。
「もの凄い速度で出てったよ、瞬きする暇もないくらいに」
「えー?! もしかしてぼくの言った事本気にしちゃってないよねぇ、ねぇ一松兄さん?」
「さぁ、どうだろうね……」
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行き先など考えてはいなかった十四松。
ただただひたすら走って荒い息をしたまま河川敷の芝生に座り込み空を見て寝転がる。
「どうしよう、どうしよう……! もし姉さんに別れて欲しいって言われたら、あわわわわ」
ぜぇぜぇと出てくる息は全力で走ったからという事だけでなく、今しがた一松とトド松に言われた言葉が頭の中をリフレインし緊張からパニックを起こしている。
「姉さんは、ボクがシたいって言うからシてくれてたの? でも、姉さんだっていつも喜んでくれてるし……姉さんからだって言う時もあるし、んー……でもぉ、姉さんがもしボクに甘くしてくれてるならボクの事を想って言ってくれてたのかなぁ? うーん、うーん」
一度考え事をすると中々その思考の答えが見つかる事のない十四松。
どうしたら最悪な未来が来ないのかと必死に脳を稼動させている。
「姉さんと会わないでおく? いやいや~、無理だよねぇ! だってボクは姉さんに会いたいし我慢できないもん、それに付き合ってるのに会わないっておかしいよねぇ……うーん」
考え事をする癖、ダボダボな袖を口元にあて目を猫のようにしながら押し黙る。
やがてポンっと一つだけ浮かびあがりその場を起き上がった表情は何かを決意したかのような顔に変わっていた。
「うん! ほんとは嫌だけど、こうするしかないよねっ、姉さんと別れちゃう方がもっともっと嫌だもん!!」
とても辛く大変な選択ではあったが、自分的には最良の考えだろうと思い至る。
決めた行動と相反して、どうしてもその恋人の顔が見たくなってしまった十四松は、勢いよく飛び上がり今日は仕事と言っていた恋人のマンションへと向かう事にした。
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