第77章 【逆ハー卒業ルート】焼肉パーティ
そう小さく口に出すと、今すぐその場で転がり回りたくなるような衝動が身体を駆け抜けるが、さすがにそれをすると松達が飛び出して来かねないのでぐっと堪える。
「くっ……アイツら……っこんなサプライズを用意していたとはっ……! 私のサプライズが薄れたっ……!」
気持ちを落ち着かせるために、わざとそんなことを呟くが、熱くなった頬はなかなか熱が引いてくれない。
あまり時間をかけても覗かれそうなので、着ていた上着を脱いで、もう一度オレンジ松パーカーを見つめると、深呼吸をしてからそれを頭から被る。
今ほど姿見が欲しいと思ったことはないかもしれない……。
松達に見せる前に、自分で自分を確認したかったが、松野家にある鏡は洗面所の鏡のみ。恐らく。
もう一度深呼吸をして、襖に手をかける。
意を決して開けようとした時、まったく同じタイミングで内側から襖が開かれ、あると思った抵抗がなく思わずよろける。
「おっと……っ、大丈夫か、ナス子っ……すまない、タイミングが悪かったな。遅いから様子を見ようとしたんだ」
内側から襖を開けたのはカラ松だったようで、よろけてしまった身体を支えられて、力強さに若干にトキめいてしまい心の中で自分の頬を殴打する。
「だっ、大丈夫! ごめん、時間かかってっ……」
カラ松がナス子の横によけ、居間にいる松達の視線が一斉にナス子に注がれる。
「どっ、どうかな……変じゃない?!」
なんのことはないパーカーなので、似合う似合わないもないとは思うのだが、少なくともこのパーカーはナス子や松達にとっては特別な意味合いを含んでおり、何のことはない、なんてことはないのだ。