第71章 【逆ハールート】主婦は偉大だ
「ねぇ、こっち向いてくれる? それじゃ僕も何も出来ないんだけど」
「………な、何か怒ってる、よね? チョロ松」
いつもと違う威圧感。
チョロ松は怒ると威圧感が半端ない。
カラ松とは違う意味で暴走もするしシコ松だしライジングもする。
しかも今は居間に二人きりの状況、この状況をどうやって切り抜けようかとナス子は試行錯誤中だ。
「怒ってるよ? だって僕だけいつもお前に触れてる回数少ないし、お前も俺に甘えて来ないでしょ」
「いや、別の意味では甘えまくってるって言うか……」
「はぁ、そういう甘えが欲しいんじゃないって事くらいわかるでしょ、もう長い付き合いなんだからさぁ」
近づいてきたチョロ松に抱きしめられて自分も背中に手を回す。
ナス子はチョロ松といると安心する、怒ってはいても親友でもあるし、チョロ松から漂う清潔感と香りが好きだ。
なんでかわからないけど、六つ子なのに皆匂いが違う。
決して全員の匂いが嫌な訳ではなく、それぞれの香りが脳に浸透するといつもドキドキと脈が速くなってしまう。
「僕だってもっと触れたいって思ってるんだけどね、他のヤツらがいるとそれが出来ないだけでさ」
「う、うん……私もチョロ松とくっつくの嫌じゃないよ? 安心するし」
安心、それは正直チョロ松にはあまり嬉しくない言葉だった。
「彼氏だからって簡単に信用しない方がいいんじゃない? ていうか逆に彼氏だからこそ信用しすぎちゃダメでしょ、じゃないとこうやってさ……」
「うぉっ」
抱きしめられていた体勢から押し倒され、上からチョロ松に見下ろされる。
「足元掬われても知らないよ? ほんと警戒心のない馬鹿なヤツ」
一度スイッチが入ってしまうとチョロ松は暴走する。
今の二人きりの状況はさすがにマズイ。
嫌ではないのだが、昼間からこんなイチャイチャした事をしてしまうのは気が引ける。
しかもよく知った家の居間でこんな事。