第71章 【逆ハールート】主婦は偉大だ
「あーあ、失敗しちゃったねぇ」
「一松が変な事言うからじゃん! てか何で今この状況で言うのさ」
「昨日聞けなかったから? ナス子が心配だったって事はわかったけど……俺だって男なんだし限界だってあるんだよ。 す、好きなヤツに触りたいのって普通じゃないの」
淡々と喋っている一松だが顔は赤いままオニギリを人数分作り続けている。
成人を超えた男が好きな女、ましてや恋人に触りたいと思うのは当然の事だろう。
今までは自分の片想いでの状態で我慢出来ずに触れてしまっていたが、今は違う。
ちゃんとした恋人同士。
だからこそ一松もナス子に嫌われたくはないし怖がられたくはない、恥ずかしい事かもしれないが確認しないとわからないと思うと聞くしかなかった。
「…………今はしないけど、これから? まだダメって言うの?」
「……だ、だっだだだダメ、じゃない……ですけども」
ナス子も昨日意を決して6人に告白したのだ。
素直に目を見ては言えないがちゃんと伝えたい事は伝える。
「ふっ……なんで敬語? もしかして照れてるの?」
同じく一松も素直にはなりきれず相手の目は見れない。
しかし漏れてしまう笑いは抑えられず背中を向けたままニヤついた顔をした。
「照れてなんかないし!! ほら、出来たからお皿出してっ」
「へいへい、オニギリも作らせておいて人使いの荒い……」
「自分から作ってくれたんじゃんっ!!」
文句を言いながら朝食の仕度を手伝ってくれる一松。
やはり優しくて気の利くいい子だなと思うとナス子もニマニマと顔が笑ってしまう。
ナス子の少し陽気な空気を悟ったのか、皿を用意して近づく一松とやっと目を合わせたと思うと、途端相手が屈みフライパンを手に持っていたナス子の瞳に大きく映り込み、自らの唇に自分のそれを重ねた。
「んなっ! 今はしないって言った、のに」
「したくなったからしただけ、別にいいでしょ。キスは今更だし、ね?」
してやったりな顔をして、ナス子の作った卵焼きやウィンナーやらを更に乗せ、自分がこしらえたオニギリもお盆に乗せると居間に運んで行く一松の後ろ姿は少し軽快に見える。