第71章 【逆ハールート】主婦は偉大だ
ミケ子にご飯を先にあげて朝食の支度を始めようとする。
仕事の事情で朝食などほぼ作った事のないナス子は台所に立つとまず何をしていいのかと首を捻った。
何かないかと冷蔵庫に向かうと、そこには松代が作ってくれたらしい食事メニューや作り方までもが記されたメモが貼られていた。
さすが松野家マミー、一家を支える一人だ。
心底そのメモに感謝をしながら冷蔵庫をあけ、書かれたままのレシピを作る。
すると、台所にペタペタと一人入ってきた一松が口を開く。
「手伝おうか?」
「なに、またセクハラでもしようとするつもり? 今はご飯の仕度で忙しいの!」
触られるのは嫌な訳ではないが、邪魔はされたくないとその言葉を一蹴りする。
その一言には気にもくれず、一松は無言で炊飯器を開けてオニギリをこしらえ始めた。
「え?! ご飯作るの手伝ってくれるの?!」
「これくらいなら出来るからね、俺も」
「おお、猫の形だ~!! 一松器用だねっ、可愛い~」
味噌汁を作りつつ一松の器用さに感心し後ろから覗き込む。
見られている一松は顔を赤くして下を向いてしまうが黙々とオニギリを握っている。
「私より上手いんじゃ……」
「逆にアンタより下手なヤツの方が少ないんじゃないの?」
「オイ、こんにゃろ! 私だって出来るしっ━━━ああ、味噌汁が沸騰しちゃうっ」
煮立ちそうな味噌汁の火を弱めて他の食材も作り始める。
まずは卵焼きのリベンジである。
フライパンの上に混ぜた卵を入れている動作を横目に一松はオニギリを作りながら振り向く事はせずポツリと口を開く。
「……ねぇ、ナス子。あのさぁ」
「ん~? なに、一松」
卵焼きをレシピ通りに作り、今度こそ調味料を間違えないよう確認して焦がさないよう慎重に作っていると不意に後ろから声がかかった。
「触っちゃダメなの?」
「━━━━━━━え? まさか卵焼きも作ってくれ━」
「違う、ナス子に触ってもいいかって聞いてるんだよ」
「え、え?! なに急に?! い、いいい今?」
突然の言葉に動揺してしまいフライパンの中の卵は何故かスクランブルエッグになってしまった。
どうしてそうなるのか……。なんでこうなってしまうのか。