第70章 【逆ハールート】花見 翌日のお泊り
「りょ、旅行の時に何度も見たでしょーがっ……なっ、何を今更……っ!」
雰囲気に呑まれてはならないと、片手で頬をベシリと叩き自分を取り戻すナス子。
前にいた六つ子達を追い越し、松野家へと足を速める。
「フッ……顔が赤いぜぇ? ナス子……お前の方こそ照れているんじゃないか?」
「うっさいバカラ松!!」
「なっははははは~! いや~、久しぶりに見た姿にお兄ちゃんついついぼーっとしちゃったよぉ~、お前こんなだっけ?」
「こんなってどんなだ!」
「ナス子姉、髪生乾きじゃない? 痛むよぉ? 家に戻ったら、ぼくがちゃんと乾かしてあげるねっ、あとそのスウェットダサイから今度一緒に買い物行こうか」
「ぐ……、優しい言葉の後に辛口発言とか怒っていいのかわかんないんですけどっ」
「姉さん良い匂いすんね! 舐めていい?!」
「いいわけない!」
「……ナス子」
「ん? なに一松」
不意に名前を呼ばれ振り向くと何かを言いたそうで言えないような口を作りまたウンコしようとするのではないかと不安になる。
「い、一松、ここ外だからね?! しかもお風呂入ったばっかだし絶対にウン……」
「……手、貸して」
「え、手?」
言われて手を一松に伸ばすと、少し震えた一松が息を吸い込みナス子の手を握る。
抱きしめるのは簡単にするのに、どうしてこのような行為に関して緊張するのか謎ではあるがナス子は一松が手を繋ぎたかったのだろうと察するとその手を握り返す。
「わはは、素直に言えばいいのに! ウンコするのかと心配になったんだけどぉ」
「言えたらもうとっくに銭湯行く前に言ってるし」
「ならば反対の手は俺だな、ん~? お手をどうぞ、マイハニ~」
「マイハニ~ってなんか嫌だけど、はいはい」
四男、五男、末っ子には甘く多少素直にもなれるのに、何故だかわからないが長男、次男、三男には素直になりきれないナス子。
マイハニーなど言われた事もなければ言われる事もないだろうと思っていた為か余計に恥ずかしいと言うかイタイと言うか。
しかしこんなイタ松も嫌いじゃないと思ってしまいヤレヤレと自分に呆れた笑みがこぼれる。