第70章 【逆ハールート】花見 翌日のお泊り
「っはー! いいお湯だったぁぁぁぁ……足が伸ばせるお風呂っていいなぁ……私もたまには銭湯に来るようにしよっかな~……あっ、ごめんごめん、気持ちよくてちょっとゆっくりしすぎちゃったかも、結構待たせちゃったかな」
ナス子が申し訳なさそうにしながら女湯の暖簾から顔を出す。
六つ子はすでに全員外で俯いて待っていた。
てっきり小言を言われるとばかり思っていたナス子は気持ちを身構えていたが、全員が何やら黙ってこちらを凝視すると、口を開く気配がないので、逆に何か不安になる。
「え、あの、ごめん、そんなに待った? 怒った?! 怒ったの?! ごめんなさいっ!」
一応長風呂をしてしまった自覚はあったので、急いで適当に乾かしただけの髪はまだ生乾きで、ナス子が勢いよく全員に頭を下げると、自分達とは違うシャンプーの良い香りがして、六つ子は一斉にうぐっと目を閉じナス子に背を向けてしまう。
「え?! 私を見たくもないほどお怒り?!」
「いや! 怒ってないから! 全然怒ってない! ほんとに!」
いち早く何かから復帰したトド松が、慌ててナス子を向き直りフォローする。
「そ、そう? それならよかったけど……ごめん、遅くなって」
「フッ、自分の女を待つ時間は苦痛とは思わないものだ……」
「おいクソ松、誰が自分の女だぶっ殺すぞ」
「トド松の言うとおり、僕達ホントに怒ってるわけじゃないからさ。いいよ謝らなくて」
「そうそう、ただちょっと━━━━━━……」
「風呂上りの姉さん色っぺーね!! って思っただけだからっ!!」
「……………へ……え?」
トド松の言葉を遮る十四松の台詞に、その場にいる十四松以外の全員が顔を赤くして俯いてしまう。
ナス子の風呂上り姿を見るのは旅行の時以来で、久しぶりに見た姿に思わず、というやつだ。
ナス子も、十四松の思わぬ台詞と六つ子の思わぬ反応に、恥ずかしくなって思わず俯いてしまった。
旅行の時とは彼らとの関係も変わっており、こういう空気もけっして嫌な感じはしないのだが、やはりどうにもこうにも慣れない。