第69章 【逆ハールート】花見
悔しさに突っ伏し絶叫するナス子を見て、不意におそ松が卵焼きを手に取り一口齧る。
「………うん! 不味い!!」
「「「「「っ?!」」」」」
敢えて誰も口にしなかった禁断の言葉を難なく恋人に言ってしまう長男は、なんともそれらしい。
聞いたナス子は拗ねる様子もなくわかってましたと言う表情で叫ぶ。
「ぬああああ、知ってる! わかっていた! わかっていたさぁ!! ていうか味見も何もしてなぁい!! うわぁぁん」
「なんで今日はちょいちょいカラ松兄さんぽいの!? ていうかさ、せめて味見くらいはしようよナス子姉っ! 普通は彼氏にお弁当作ったら味を心配して確認するのが彼女ってものじゃないの!?」
珍しくもナス子をフォローしてくれた突っ込み頭チョロ松の優しさをぶち壊すかのように、第二突っ込み隊のトド松に文句を言われる。
やはり寝ずに料理するのはよくないなと思うが、時間がなかった為仕方がない。
「ほ、ほら……仕事終わって意識失いかけながら作った、し?」
「いやいやぁ、それでもここまでの味にはならないでしょぉ~? お前実は俺達の事好きじゃないんじゃないのぉ?」
急な発言に六つ子全員にまた真顔で見られる。
どうしていつもこういう時は皆が同じ顔と同じ動作になってしまうのだろうか。
だがいつもと違うのは六つ子ではなくナス子だった。
多少の緊張で間は開いたが、口を尖らせ視線を横に逸らすとちゃんと六人に聞こえるようにハッキリと告げる。
「す、好きだし! だから寝ないで作ったんだからっ……今更そういう事言わないでくれる?!」
「へへっ! そっかぁ、俺達の事好きかぁ~」
何故かおそ松が鼻を擦ると嬉しそうな、微笑ましい表情で見られた。
周りを見渡すと残りのメンバーも同じ表情をしている。
なんだかお兄ちゃん達に一生懸命お弁当を作った子供みたいな扱いを受けているような気分である。
「ナス子、安心しろ……お前のそのファイトだけは俺もその今にも永眠してしまいそうな隈から十分に伝わってきているぞ……」
ポンっとカラ松の手の平が頭に乗りガシガシと撫でられる。
悪い気分はしないのだが、恥ずかしい。