第3章 開き直られました
「い、いつもはもうちょっと安全な任務をやってるんだ。
でも今日に限って上の人が、ものすごい剣幕で」
「ふむふむ」
「人身売買組織とか臓器売買組織を片っ端から調べろって……」
「調べるだけで終わればいいじゃないですか」
そういえば、よく見るとレオナルドさんの服は汚れているし、かすかに硝煙の匂いがした。
「でも、ク――その、うちのボスがものすごい正義感の強い人でさ。
そんな裏組織なんて調べたら、可哀想な子の話がたくさん出てくるだろ?
報告を聞いた以上は放置できない、潰すって……」
変わったボスだ。まるでクラウスさんみたい。
「で、売られた人たちを警察に保護してもらって、報告書を書いて……何なんだよ、今日は」
とんだ厄日だと言いたげである。
「この街で、ずいぶんと酔狂なボスですね。悪い奴らは許せないですが、一銭にもならないことに自ら首を突っ込まなくても」
「……まあ、そういう人なんだよ。あの人は」
レオナルドさんは、ほんの少しだけ誇らしげに笑った。
けどすぐに、訝(いぶか)しげな顔になり、独り言のように、
「でもス――じゃなくて、何で『あの人』が言い出したんだろ……。
そりゃ売られた子たちは可哀想だけど、世界の均衡が関わらない限り、自分からそんなことを提案する人じゃないのに――」
「世界の均衡?」
「うわああああっ!! 何でもない!! 何でもないからね、ハルカっ!!」
……しゃべらせとけば、自分から凄まじい勢いでボロを出すタイプらしい。
しかしおかげで、私のバイト先の話はうやむやになったのだった。
それから、二人でまたコークとジャンクフードで夕食をすませ、ゲームを始めた。
名作映画鑑賞もいいけど、やっぱこういうのが、以前の私の日常に近いみたいだ。
とても落ち着くし、誰かとゲームをするのはすごく楽しかった。
「ええ、記憶喪失なの!?」
ゲームの間の雑談ついでに、記憶障害のことについても話した。
「そうですよ。だから家族のこととか、全然覚えて無くて」
「ちょっと見せてくれる?」
「どうぞ」
昨日のように、鮮やかな色彩の瞳を開き、レオナルドさんは私の呪いをスキャンした。