第6章 悪夢の外伝
「あの。そろそろちゃんと服を着たいのですが……」
私は全裸にタオルケットを頭からかぶり、ぜえはあと息を整える。
相変わらず一枚も脱いでいない男は涼しい顔で、
「それで、ハルカの欲しいものは何だい?」
もはや脅迫なんじゃなかろうか。
仕方ない。なら私が欲しいものを正直に話そう。
「私が欲しいものはいくつかあります。1.クレジットカード(スティーブンさん名義)、2.バスタブいっぱいの札束、3.転売時に足がつかなそうな美術品、4――」
「もういい」
口をふさがれた! スティーブンさんは呆れ果てたように、つつーっと私の肩を撫でる。くすぐった!!
「全く君って子は……こんな街だから、現実的な答えもありかもしれないが、ここはもう少し――」
盛大なため息が聞こえる。情事の後だから、もう少し甘いこと言えって?
「夢のある回答が欲しいですか? 実は暗号資産が良いのですが、正直あれは夢がありすぎて私の手には負いかねます」
「偉そうに言うんじゃない」
いったあ! 久々にデコピンされた!!
しかし、あまり相手が萎える回答を連発していたら、そのうちマジでフラれるかもしれん。
私の恋人は多くの女性に超モテるのだ。
「うーん」
でもスティーブンさんって、何だかんだで甘やかしてくるから、欲しいものはすぐ買ってもらえる。Nintend○ Switchもそうだったし。
なら――。
私はスティーブンさんのお膝に頭をのっける。
こら。タオルケットをはがすな、上半身が寒い!
「じゃあ……その。二人でゆっくり運動でも……」
スティーブンさんは忙しい。
だからスティーブンさんがそばにいてくれることが、私には一番嬉しいことなのだ。
すると、
「そうだね。じゃあ今度二人で店に行って、新しいランニングマシンを見に行こうか」
待て。この展開で字義通りに受け取る奴があるか。
というか家をジムに変えるつもりかセレブめ。トレッドミルに無理やり乗せる拷問は、もう勘弁して下さい。
「なんてね。冗談だよ、冗談。可愛いなあ、ハルカは」
お。機嫌が直った。両手で頬を挟まれる。むぎゅむぎゅ。
「じゃあ今度二人で店に行って、アダルトグッズでも見に行こうか。たまには新しい刺激がないと」
……その件は丁重にお断りしておいた。