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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第3章 開き直られました



 翌朝。レオナルドさんは時計を見て真っ青になっていた。
 ちなみに職場からの電話は、またも鳴りっぱなしだった。

「うわああ!! な、何で起こしてくれなかったの!!」

 泡食ってズボンを履き、寝癖を直す暇すらなく、バタバタ走り回る。
 起こそうとしたがアラーム、大声、殴打、全てが無駄だった。
 距離を取るしかなかったのだ。

「私の呪いの効果の一つで『覚醒遮断』と名付けました。
 眠りにいざなう呪い『導眠』と対を為す能力です。
 春眠、暁を覚えず。私の間近で寝た人は起きることが難しくなるのです」

「カッコつけて名前つけてる場合かあ!!……すすすすすみません、寝坊しました!! 今から出ますからぁ!!」

 レオナルドさん、涙目で電話に怒鳴っていた。
 その肩にソニック君が飛び乗り、首をかしげている。

「それじゃ、夜に帰ってくる!! テーブルに置いといたお金で適当に食べて!!」
「ありがとうございます。いってらっしゃい、レオナルドさん、ソニック君」

 そして扉がバタンと閉まり、バタバタと足音が遠ざかり……部屋は私だけになる。

「また迷惑、かけちゃった」

 笑顔で見送ったものの、内心は自己嫌悪でいっぱいだ。
 レオナルドさんは命の恩人(パート2)なのに。
 それに。

「……ホントに、これからどうしよう」

 数日前までは、自分には確固たる居場所があると信じて疑わなかった。
 外の世界に家があり、私を待ってくれている人たちがいる。

 そんな細すぎる糸がぷっつり切れた。

 一ヶ月半が過ぎようとしているのに、未だに私を探しに来ない家族。
 解ける見込みのない『呪い』。薬を飲まなければいけない身体。
 
 私はヘルサレムズ・ロットから出られない。

 ……こんな危険な街で、呪いを抱えて生きていかなくてはならないのだ。

「スティーブンさん……」

 名前を呼びたくなかったのに、呼んでしまう。
 胸がキリキリと締め付けられるように痛い。

 でももう、頼れない。
 あの人の中で、私は『外』に帰ったことになっているはずだ。
 泣いてるヒマはない。私はグスッと目元をぬぐった。

 生きねば。

 ガバッとソファから起き上がり、テーブルの上に置かれた小銭を握りしめた。

「まず、仕事を探さないといけないですね」

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