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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



「はあ。やっぱり仮眠くらいは取っておくべきだった。
 目が覚めたらホームレ……知らない女の子が同じ部屋にいるとか」
 ホームレスと言いかけ、かろうじて修正したな。
 覚醒時にはそれなりに、礼儀正しいお方らしい。

 スティーブンさん、指の間からチラッと私を見る。でもすぐ目をそらした。

「そもそも、なぜ私を誘拐されたのですか?」
「誘拐とか言わない」

 誘拐っしょ。

 私は首をかしげる。お顔、高級住宅、多分カタギでは無いご職業。
 彼は、どう見てもモテる要素のカタマリだ。
 行きずりの宿無し少女をさらうほど、飢えてるようには見えない。

 するとスティーブンさん、私から顔をそらしながらボソッと、
「夢を見たんだ。夕暮れの中、輝くような、きれいな人がいて――」
「良かったですね、正夢ですよ」
「その後はよく覚えていない。今までこんなことは一度も無かったのに……」
 ツッコミ! ツッコミをっ!!


 ツッコミは結局無くて、スティーブンさんはまた、ため息をつく。
「僕もそろそろ若くないってことか? こんな失態をするだなんて。ずいぶんとヤキが回ったもんだ」
 よほどショックだったらしい。何か悪いことをした気分になってくる。
「泥酔して目が覚めたら、電車内でチカンやらかしてて人生終わったキャリア官僚みたいなもんですか」
「もっといい例えが浮かばないのか、君は」
「人生終わったキャリア官僚のオッサン」
「なぜ余計な文言をつけ加える」
「自分で若くない言ったくせに」
「自分で自虐に使う分にはいいんだ! でも他人に茶化されると腹が立つ」
「難しいお年頃ですな」
「そういうことだ。それと君は、もう少し年上に対する口の利き方を覚えた方がいい」
 えー。それと、上手くツッコミを入れてもらえないモヤモヤ感。


 そこでスティーブンさんは私を見てハッとした。

「……と、いやのんびり話している場合じゃ無いな」

「そうですね。どうも一晩、お世話になりました。
 ホントに家の中の物には、何も手をつけてませんから安心して下さい」

 ヨロッと立ち上がる。うう、服の生乾きの臭いが嫌。
 ぐっすりではないけど、久しぶりに安心して眠れて少し元気になった気がする。
 嫌な顔はされるだろうけど、もう一度警察に行ってみよう。

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