第1章 連れてこられました
「どうも本当にありが……あっ」
いかん。膝の力が抜けた。
「君!」
パシッと腕を取られた。そして彼は私をソファに座らせ、
「ちょっとそこで待ってなさい」
と、足早に部屋の外に出て行った。
私はしばらくそこで呆け――ソファが汚れるのが心配で、さっきの場所に戻った。
…………
スティーブンさんが戻ってきた。彼は床の隅に座ってる私を見て、
「どうしたんだ? 座り心地が悪かったのかい?
それとも床が好きなのかい? 昨晩も座って寝てたみたいだけど」
私を不思議そうに見る。いやそこまで床を偏愛してませんがな。
「ソファが汚れるし」
「…………」
スティーブンさん、しばし絶句し、
「もしかして、そんな理由で寝るときも床に?」
「そりゃまあ」
「……ソファに座ってほしい」
スティーブンさん、私にキッパリとおっしゃる。
「いえ、大丈夫ですよ。ささ、遠慮なさらず椅子にお座りになって下さい」
「何で君に、椅子を勧められなきゃいけないんだ……。
とにかく、いいから座ってくれよ。君を床に座らせて僕だけ椅子なんて、出来るわけがないだろう?」
「はあ」
首をかしげ、ソファに座る。
ホントのことを言うと、やっぱりやわらかい場所に座りたかった。ここ最近、ずっと固い地面に座るような生活だったので。
そしてスティーブンさんがエプロン姿だと気づいた。
彼はトレイを持っていて、それを私の前のテーブルに置く。
彼が置いた物は……!!
「急いだから、こんな物しか出来なかったけど。さ、食べ――なんで目を閉じてるのか、聞いてもいいかい?」
「見たら食べたくなると思いますので。自分を抑える自信がないんです」
目の前に置かれたのは、ロールパンとベーコンエッグ、レタスサラダにミルク。
多分、もう一度見たら、スティーブンさんの目など構わず、ガツガツ食べてしまえる自信がある。
これはスティーブンさんの朝食であり、私の朝食ではないのだ。
そして、深い深いため息が聞こえた。
「……君がこの一ヶ月、世間からどんな扱いを受けてきたのか、推し量れる反応だね」
「詳しくお話しましょうか? 漏れなく陰鬱な気分で一日を過ごせますが」
「止めておいた方が良さそうだな。朝の話題にふさわしくない」
スティーブンさんはそう言ったのだった。