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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



「そっか、君、行く場所が無いんだ。じゃ、僕の家に来る?」

「いえ、遠慮します」

 即答した。
 知らない人の親切ほど怖いものはない。

「ま、いいからいいから」
「えー」
 けどスティーブンさんはこっちの返答無視で、私をどうにか立たせる。
 そして一切ためらわず、手をつないで引っ張って行く。

「いえ、ホントに私、行くところが……」
 ぐいぐい引っ張られながら言うが、
「無いよね? さっき自分でそう言ったんだし」
「うう……」
 そうこうしているうちに、スティーブンさんは無人タクシーを停め、私を乗せる。
「さ、行こうか」
 楽しそうだ。とても。疲れ切ってるけど。

「いえ、でも」
「いいだろう? ハルカ」

「…………はい」

 かくして私は、拉致られた。

 相手がどんな人か分からないので、この時点で貞操とかそういうものは完全に諦めてた。

 少なくとも屋根のある場所で寝ることは出来るだろう、パンくらいは恵んでもらえるだろう。
 そんな期待もどこかであった。

 だが!!

「……ぐー……」

 だがしかし!

 スティーブンさんは私をタクシーで家まで案内し、寝室に行くなりベッドに倒れ爆睡してしまった!

「うーん……」

 寝てしまった家主を前に、私は困ってしまった。

 キッチンで食べ物を漁る? こっそりシャワーを使わせてもらう? 金目のものをもって逃げる?

 人としての尊厳を捨てさる様々なアイデアは浮かんだけど、結局私は何もしなかった。

 小心ということもあったし、目的が何であれ親切にしてくれた人に、恩を仇で返す真似はしたくなかった。

 身体は汚れきってるし、お腹もすいたけど、とりあえず一晩眠れる場所は確保出来た。

 ベッドに入りたかったけど、スティーブンさんが使ってるし、こんな身なりでは高価なベッドが汚れてしまう。


 そんなわけで、壁にもたれて私はやっと眠りにつくことが出来たのだ。


 ――はい、回想終了。

「……まいったな」
 
 私から話を聞き終えたスティーブンさん。片手を目に当て困り切ったお顔であった。

 五徹で判断力が滅亡し、普段は絶対にやらないバカをやらかした、というコトらしい。

 私も困ってます。

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