第3章 開き直られました
目元をぬぐい、荷物をバッグにまとめた。
そして、さらさらと手紙を書く。
『スティーブンさんへ
お父さんとお母さんが、私を探しに来てくれました。
呪いも早めに解いてもらえたので、両親と出発します。
今まで本当にありがとうございました。ご恩は一生忘れません。
ハルカ』
「これでいいかな」
手紙を10ゼーロ紙幣と共に近くの看護師さんに渡す。
目元に傷のある青シャツの人が来たら、これを渡し、私は迎えの人と先に帰ったと伝えてほしいと。
幸い看護師さんが快諾してくれたので、私はお礼を言って病室を後にする。
これだけやればスティーブンさんも安心するはず。
もう私を探したりはしないだろう。
私も過去ばかり見ているわけに行かない。
生き延びねば。サバイバル、再びである。
…………
まあ、ンな決心、半日も続かないのであるが。
「待て! 待って下さい!!」
私は必死に追いかける。
「薬! 大事な薬が入ってるから!!」
息を切らし、追いかけるが引ったくりは待ってくれない。
ついでに通行人も誰も助けてくれない。嗚呼(ああ)、ヘルサレムズ・ロット。
何があったのかと言うと引ったくり被害だ。
病院を出て何時間も歩かないうちに、小銭や薬の入ったバッグをひったくられたのだ。犯人は異界人ども。
だけど何よりも薬。呪いの進行を止める薬だけは失うわけにいかない。
「お金はあげるから、薬だけは返して下さい!」
叫べども敵は止まらない。でも少しずつ距離が縮まっていく。
よし、もう少しでバッグに手が――!
「ガハハ。残念だったな、嬢ちゃん~」
「いけないよ~。観光客がヘルサレムズ・ロットの路地裏まで入ってきちゃあ~」
痛い! 逆に腕をつかまれた。
引ったくりたちはすでに止まっている。
馬鹿な私でも気づいた。
不味い。非常に不味い。
周囲を見ると、すでに薄暗い路地裏だ。
やっちまった……!
考えてみれば、引ったくりが小娘に追いつけるスピードで走ってること自体がおかしかったのだ。
「っ!!」
大声を出そうとしたが、後ろから羽交い締めにされ、口を塞がれる。犯人たちはニヤニヤ。
冷たい汗が流れた。