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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第3章 開き直られました



 スティーブンさんは私の肩をつかみ、さっきより長くて優しいキスをした。

「君は強く生きていける。多少アレだけど」

 だから!『アレ』って何なのっ!! そっちの方が気になってくるでしょうが!!

 スティーブンさんは私を抱きしめる。
 痛い。痛いくらいに強い力。

「償いにもならないだろうけど、代わりに君を絶対、この街から出してあげるから」

『アレ』が気になって、言葉が頭に入らねぇ!!

「ハルカ? やっぱり怒ってる? はは。変だな。君に怒られるのが、ちょっと怖いよ」

 い、いや。別のことが気になってるからであり、決して『怒りのあまり言葉も出ない』わけでは……。

 スーツを着こなした、目元に傷のある男が微笑む。

「君を忘れない」

 絶対嘘だ。

「私も忘れません」

 こっちは忘れたくても忘れられない。
 こんな人、二度と出逢えない。

 そして私たちは、もう一度キスをした。

 …………

「退屈ですなあ」

 その後、スティーブンさんは一旦帰られた。
『完全解呪証明書』が出たら、すぐヘルサレムズ・ロットを出られるようにしたいみたい。
 色々お仕事をして、明日また来てくれるらしい。 

 私はポツンと一人取り残され、個室のベッドに横になる。
 せっかくの休日を、私のために使わせて申し訳ない。

 不安と期待、この危険な街から出られるという、かすかな安堵。
 そして……それらを全部足しても追いつかないくらいの虚しさ。
 捨てられることを悟った子犬の心境だ。
 
「スティーブンさんの連絡先だけでも聞けないかなあ」

 あ、ダメだ。今のとこ電話番号さえ知らないのだし。
 
「ハルカさん、検査のお時間です」
 異界人の看護師さんが呼びに来た。

「はーい」
 私はスリッパを履いて、すたすたと病室を出た。

 …………

 …………

 病院は深夜になりかけていた。

「は?」

 私は呆然と、先生に言った。
 先生は顔を上げもせずカルテに筆記をし、

「帰っていいよ。検査、もう必要ないから」

「でも『完全解呪証明書』を出さなきゃいけないんじゃ……」

「出せない。呪いが解けないから、これ以上検査をしても無駄」

 反応出来ず口をパクパクさせてると、 


「頑張って一生、その呪いとつきあっていくことだね」


 超、事務的に言われた。

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