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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第3章 開き直られました



 そして、とっとと病棟に移動となった。

「病気でも無いのに入院って、変な感じですね」

 個室のベッドに座り、霧に覆われた窓の外を見る。
 スティーブンさんも隣に座り、
「僕が完全解呪証明書も請求したせいかな」

『この観光客は、もう完全に呪いが解けました。外に出しても大丈夫ですよ~』的な書類が必要になるらしい。

 ちなみにここに至る手続き、個室代、簡易入院セットその他もろもろ、スティーブンさんのポケットマネーである。
『今までのお給料代わり』と言われた。
 こっちも手持ちがない以上、受け入れるしかなかった。

「大げさですよね。ちょっとした軽い呪いなのに」

 足をぶらぶらさせ、私は不満をこぼす。
 スティーブンさんと別れるのは内心嫌だったけど、呪い自体はさっさと解いてほしかった。

「そうでもないさ。前にも言っただろう? 君の呪いが『完璧』に発動すれば、歩くだけで低体温症の死者が続出すると。多少大げさでも、ちゃんとしておくべきだ」
 ポスッと横に倒れ、番頭さんに膝枕していただく。
「だーかーらー、そんなこと今まで起こってないし――」
「僕も安心したい」
 スティーブンさんは、私を抱き起こし、頭をポンポンと叩く。
「え?」

「君が、ヘルサレムズ・ロットの嫌なことは全て洗い流せたのだと。
 他人の悪意など振り捨てて、『外』の世界に帰れたのだと。安心したい」

 私を見送り、もう大丈夫だと安心してから――スティーブンさんは私の記憶を切り捨て、元の日常に戻るのだろうか。

「ん? どうした? 何か欲しいのかい?」

 キスなんか、ねだってやらないですからね?
 私はスティーブンさんの目元の傷を、そっと撫でる。

「くすぐったいよ、ハルカ」
 笑って手を押さえられる。
「痛っ」
「あ、ごめん」
 すぐ力が和らいだ。でも一瞬だけ強い力を感じた。

「君もすぐ、僕を忘れるさ」

 一生忘れねえ。ピュアな乙女のハートに、出刃包丁で裂傷入れやがって。

「ホントだよ。僕を信じなさい」
 ちゅっと、また触れるだけのキス。

「君は優しくて、強くて、一生懸命で。多少アレだけど、僕が出会った中で一番素敵な女の子だよ」

 止めて。イケメンの顔でそういうこと言うのマジ止めて。

 ……そして『アレ』って何すか。

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