第3章 開き直られました
でも『常春病』には悩まされても、記憶喪失に関して悩んだ記憶があまりない。
それどころか、重荷が取れたようにホッとしていた自分もいた。
何でだろう。
……捨てたいような記憶だったのだろうか。
い、いやいや。そんなはずはない。ちゃんと思い出したいから!
「ハルカ?」
声をかけられハッとした。スティーブンさんがマジメな顔に戻り、ミラー越しに私を見ていた。
「大丈夫だよ。言っただろう? このヘルサレムズ・ロットは屈強な軍人ですらアッサリ死ぬ街だ。
君はそんな街で孤立無援な中、一ヶ月も生き延びた。もっと自分を誇っていい」
「はい、ありがとうございます……」
褒められ、ちょっと気を取り直した。
「本当にお世話になりました。でもスティーブンさん、危険な仕事からは足を洗った方がいいですよ?」
「そうもいかないさ。これも僕の――……あのさハルカ。君、まだ僕がマフィアのナンバー2だと思ってるだろ?」
「フッ。危険なマフィアに惚れた女に、未来など望めません。せめて愛する人のために身を引くのが女の宿命(さだめ)……」
そっと涙で袖を濡らす。
「……君、マフィア設定が気に入っただろ?」
ジト目というものを、久しぶりに見た。
…………
そんなこんなで、またも別れとは程遠い雰囲気になりつつ、病院に着いたのだった。
「あ、そういえば解呪の費用とかは」
「いいよいいよ、僕が払う」
スティーブンさんは病院に向かって歩きながら笑う。
「でも結構かかるって」
「気にしないでくれ。僕にとっては大した額じゃ無い」
「でも……」
すると肩に手を回された。上を向くと、スティーブンさんが悪い男の笑みで、
「マフィアのナンバー2が、女に金を出させるわけがないだろう?」
……あなたも大概、ノリノリじゃないっすか。
…………
…………
「入院ね」
病院の『呪術科』なるファンタジーな診療科。そこで、人間の先生は仰った。入院しろと。
「すぐに解呪していただけるのでは?」
スティーブンさんは静かに聞く。
「そのための検査入院。一、二日で終わるから」
先生はこちらも見ず、さっさとカルテを看護師さんに渡した。
てっきりすぐ終わると思ったのに。
スティーブンさんを見ると、何とも言えない表情で窓の外を見ていた。