第2章 告白されました
スティーブンさんが腕を引っ張って起こそうとするので、『いやいや』と首を振って嫌がった。
「仕方が無いなあ」
ため息の音。
そして私は両腕で抱き上げられた。
ドアの開く音、薄暗い廊下を歩く音。
落とさないよう大切に抱きかかえられて。
私はスティーブンさんの胸にもたれ、夢心地だった。
「ほら。君の部屋についたよ、王女様」
まだまだ眠い。適当にうなっていると、ふわっとベッドに横たえられた。
「後でちゃんと着替えるんだぞ、ハルカ」
「はい~。ども~」
ベッドの上でゴロゴロ。
喜んで布団にくるまる。
そして目を開ける。
スティーブンさんが、まだ見ていた。
青いシャツとスラッとした長いズボン。ポケットに手を突っ込んで、顔はどこか無表情で。
けど私に近づいてきて。
「…………」
また、キスをされる。
「……?」
キスだけでは無い。首元に少し空気が入った。一呼吸遅れ、ボタンを一つ外されたと気づいた。
そのとき一瞬、自分を呑み込んだ感情が、混乱か恐怖か怒りか……喜びか、分からなかった。
私はただ、寝たフリをした。
耳元に息がかかる。
「それでも、ローマとヘルサレムズ・ロットは違うし、君は王女ではない」
そっとボタンがもう一つ外される。私は必死に寝たフリをした。
耳に触れるほどの距離で、低い声が聞こえた。
「この街は異界に通じる、異次元の租界だ。物見遊山(ものみゆさん)で来た観光客に何があろうと、自己責任扱い。死体すら捜索されない」
ボタンがもう一つ外される。
指が忍び込み、つぅっと鎖骨を撫でる。
私はビクッとしたけど、それでも寝たフリをした。
他にどうすればいいか分からなかった。
「時々、衝動にかられるよ。君をこのまま、この家から外に出さず、死ぬまで閉じ込めておきたい――」
指が肌着に触れるか触れないかの場所まで滑り込む。
私はガタガタ震え、叫ぶ寸前だった。
「……なんてね」
空気がフッと緩む。
ボタンが丁寧にかけられ、ついでに布団もかけられた。
「その前に君を『外』に出さないとな。じゃ、おやすみ」
スタスタと歩き、バタンと扉が閉まる。
私は布団の中で沈黙し、沈黙し、沈黙し――。
「この変態がぁーっ!!」
ブチ切れ、枕を壁にぶつけたのであった。