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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第2章 告白されました



 一時間後。

 スティーブンさんは死んだ魚の目をされていた。

「ハルカ。何でサメ映画なのにサメがほとんど出ないんだ」
「予算の都合です」

「何でモンスターパニック映画なのに、人が死ぬ描写がない」
「予算の都合です」

「何でどうでもいい退屈なカットが延々続く」
「予算の都合です」

「CGがひどすぎる。素人の作った動画作品の方が、まだマシだ」
「予算の都合です」

「話が単調だし、役者もやる気なさすぎだろ」
「予算の都合です」

 往年の名作を見た後に、駄作と名高いサメ映画を観る。
 彼の精神的苦痛は、察するに余りあった。

 ご自慢の大スクリーンに映し出される、B級と呼ぶもおぞましい何かに、敵はついにキレた。

「こんなクソ映画を見続けるくらいなら、壁でも眺めていた方がマシだ!」

「でしょうね」

「君は本当にこれで満足なのか!? 貴重な時間を、もっと有意義に使いたいと思わないのか!?」

 私は虚ろな目でスクリーンを見ながら、

「分かってませんねえ、スティーブンさん。クソ映画鑑賞とは虚無の鑑賞です。
 作り手側の低予算による限界までの引き延ばしと使い回し、売れない俳優たちのクソ演技。
 それでも制作費を回収するため作られた、犯罪の域に達する詐欺予告。
 私たち鑑賞者はそれらの事情まで考察し、限界まで精神を摩耗させながらクソ映画を観る。
 虚構と虚無。そう、サメ映画には人生の真実があるのです」

「君、急に饒舌(じょうぜつ)になってないか!? そんなに語りたいくらい好きなのか!?
 その程度の真実なら他でも学べるだろうっ!? 頼むから戻ってきてくれ!!」

 マジで泣きそうな顔で言われたので、
「落ち着いて下さい。あと少しでエンドロールです」
「本当かい?」
 スティーブンさんの目に、かすかな希望。

「芸術的に引き延ばして、15分くらいあるらしいですが。
 もちろん早送りなしで最後まで見ます」

「――っ!!」
 
 映画よりも迫力ある断末魔が響き渡った……。

 …………

「ハルカ。起きなさい。ハルカ」

 誰かに揺さぶられるが、私は『うーん』とうなって起きない。

「全く。駄作映画鑑賞者を気取っていたのは誰だよ。
 君がスタッフロールの途中で寝てどうするんだ」

 だって……あまりにも単調だったから。

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