第2章 告白されました
そして顔を離し、スティーブンさんが言った。
「ハルカ。次の休みに病院に行こう。そこで君の呪いを完全に解く」
「……え……」
「その次に警察に行く。僕のコネを徹底的に使って、なるべく早くヘルサレムズ・ロットから出られるよう掛け合ってあげるから」
「…………」
よく分からないけど、『ヘルサレムズ・ロットから出られない』という前提があり、そのための一時的同居だった気がする。
「ごめんよ、ハルカ」
スティーブンさんは優しい顔だった。
私の耳を撫で、そっと髪をかき上げる。
「僕の勝手な判断で手元に置こうとしたり、逆に殺そうとしたり。あまりにも身勝手だった」
まあ、人を殺そうとするのは、確かに身勝手ですな。
「……私、『外』の世界に戻っても大丈夫ですかね」
やっぱり私は『外』に出て大丈夫なんだろうか。
ということは……私の両親は無事ということ!?
けど、その疑問には明確な返答はなく、
「ヘルサレムズ・ロットで一ヶ月生き延びた君だ。外の世界でも、きっと強く生きられる」
「…………っ!」
その微笑みに、心に激しい痛みが走る。家族や本当の家のことは頭から吹っ飛び、スティーブンさんで心が一杯になる。
でも必死に必死に押さえつけてフタをした。
スティーブンさんには金髪美女の恋人がいる。私のことは一時の感情! お遊びだから!
「ハルカ……泣かないでくれ」
「……!!」
指先で涙をすくわれ、自分が泣いていることに気づいた。
「ち、違います!! これは……」
目元をごしごしこすった。
「ごめん。君を口説いたり突き放したり、本当にすまない」
「い、い、いえ。スティーブンさんは何も悪くないです……死にかけてたとこを助けていただいて日々感謝しており!……その……」
いつもみたいに生意気なことを言おうとしたけど、出てこない。
映画を観たせいだろうか。
いずれ来る別れが現実のものとして思えてきて、そうなったらどうしようもなくなってしまった。
でもスティーブンさんは大切なものを作りたくない。
私は『外』の世界に本当のホームがある。
それ以前に、この無法地帯そのもの、下手をすると物理法則すら通らない街で生きていくなんて無理だ。
この街でずっと暮らしていくことは、出来ない。