第2章 告白されました
翌朝。
スティーブンさんは、いつも通りに出勤であった。
昨晩の一瞬の殺意など、無かったかのように。
「それじゃ、いってくるよ。遅くなるようなら、勝手に食べて先に寝ていいからね」
「了解しました。いってらっしゃい、スティーブンさん!」
玄関先で軽いハグとキス。掃除用具を取りに行くついでに、窓からお見送り。
互いに笑い、手を振り合う。
スティーブンさんの姿が見えなくなり、窓から離れながら顔を赤くする。
……何だか、新婚夫婦みたいだなあ。
「いやスティーブンさん、多分恋人いるし」
『この前連れ回してた金髪女と別れたのか!?』
ザップという名前らしい、チンピラの言葉が頭から離れない。
昨日は呆然としてたけど、今日はそのことだけが頭をぐるぐるする。
「そりゃまあ。いて当たり前だよね」
エプロンをつけ、掃除機を取り出しながらため息。
カッコ良いし、強いし、頭いいし、危険な雰囲気あるし。
私でなくとも夢中になる人は多そうだ。
「い、いや、私、夢中になんかなってないし!」
スイッチを入れ、掃除機をかける。
命が危ういから仕方なくおつきあいしてるだけだ。
夢中になんてなってない! 掃除に集中する!
けど立ち止まり、小さくつぶやいた。
「私だって、帰りを待っててくれる人たちがいるんだし」
窓の外は、霧の中の不思議な街。でも故郷はここじゃない。
私と一緒にこの街に来たはずの人たちは、どこにいったのだろう。
何で私を探してくれないのだろう。
「お父さんとお母さんが、無事でありますように」
ポツリと出た言葉は、掃除機の音に紛れ、私の耳にも届かなかった。
…………
…………
セキュリティが解除され、玄関のドアが開いた。
「ただいま」
スティーブンさんは私をハグし、軽いキス。
「おかえりなさい。お忘れ物ですか?」
「何で夜になってから、忘れ物で帰ってくるんだよ」
額と額をコツンとぶつける。
「ですがまだ早い時間ですよ?」
てっきりまた、日付が変わってから帰ってくると思ったのに。
「君、クラウスに電話でプレッシャーかけただろ?
僕が全然眠れてないとか、働き過ぎだとか」
「かけておりません、かけておりません」
「おかげで、今日こそは定時で帰ってくれと拝み倒されたよ」