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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第2章 告白されました



 寝室につき、私をベッドに下ろすスティーブンさん。
 私はまだ話の続きである。涙ながらに、
「『ここは俺が守る! 君は生きろ!』待って! 行かないで、ジョニーっ!!」
「いや誰だよ、ジョニーって」

「ああ、あの大雨の日、組織から逃げ出したマフィアのあなたを助けたりしなければ!!」
 エンダァァァ!!と歌い出す私。

「もう冒頭のシーンから全てが完全に変わってるね」
 腕組みをし、うんうんとうなずくスティーブンさん。

「明日見るのは『ボディガード』……いや『タイタニック』もいいかな」
 もはや私の話を聞いていない。
「あ。私『シャークネード4』でも――」
「『ローマの休日』にするか」
 即答であった。

 スティーブンさんは私をベッドに寝かせ、優しくお布団をかけて下さる。
「君は面白いな。『外』に戻ったら、小説でも書いてみたらどうだい?」
「今どきマフィアと薄幸の美少女の恋物語なんて売れませんよ」

 スティーブンさんは苦笑いし、私の額を指でつつく。
「僕はマフィアじゃないよ。ただの勤め人だ」
 私は首を傾げた。
「『ただの』ではないですよ。偉い人ですよ」
「偉くなんてないよ。危険な現場で、泥臭い尻拭いをする。一番汚い役回りかもな」

「一番汚いお仕事をする方が一番偉いものです。
 褒めてさしあげましょう。よしよしよし」

 ちょうど手の届く黒髪を、全身全霊をこめてぐしゃぐしゃにする。

「……っ!」

 ちょっとだけ沈黙があった。

「こんなに殺意のこもった『よしよし』は初めてだな」

 沈黙の後、笑って私の手を引き離すスティーブンさん。
 気のせいか、無理に笑っていた気がした。
 
「君は良い子だ。本当に……辛くなってくるよ――」

 私の手をつかむ手を、そっと私の喉に――。

 時間が止まる。

 一瞬だけ、このまま首の骨を折られるのかと思った。

 違う。『確信』だった。

 暗い部屋でスティーブンさんの表情は見えにくい。
 だけど分かる。無表情だ。
 瞳に一切の感情がない。

 私は目を閉じる。一瞬で終われと願いながら。



 沈黙は一秒だっただろうか、一時間だっただろうか。

「おやすみ、ハルカ。また明日」

 目を開けると、スティーブンさんが片手を上げて部屋を出て行くところだった。

「おやすみなさい」

 私も笑顔で応えた。

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