第1章 連れてこられました
「お、おう。それは大変だな。俺んとこも女房が出てったときはあっという間にゴミ屋敷に――て、そうじゃねえ!」
チンピラは盛大にノリツッコミ。
でもゲヘゲヘと下品な笑いで、何とかペースを取り戻し、
「じゃあ、てめえんとこの家政婦の代わりに、俺らが家をきれいにしてやるよ! 家財道具、一切合切もらってやっからなあ!!」
そして『ヒャッハー!』という感じで襲いかかる。
お兄さん、絶体絶命!……かと思いきや『はー』と、深いため息をついていた。
「仕方ない……すぐに終わらせるか」
ところで私は、先ほどからピクリとも動かない。
チンピラやお兄さんは、私の存在に気づかないようだ。
そして。
「エスメラルダ式血凍道――ヴィエントデルセロアブソルート【絶対零度の風】!!」
あ。
お兄さんの放った攻撃技がたちまち、チンピラ共を氷の彫像に変えた。
そして私にも、もろに――。
ばっしゃあーん!!
「うわっ!!」
高速で飛んできた水を全身にひっかぶり、私はベンチから弾き飛ばされた。
ゴロゴロと転がって、やっと止まる。
水をひっかぶったせいで、全身砂まみれ。
服や下着の中にまで砂。最悪中の最悪である。
「げほっ……げほっ……!!」
口の中に入った砂や泥水を吐き出そうと、咳き込んだ。
でも、どうやら氷系の技だったらしい。おかげで命が助かった。
……助かった? 今、何も分からないまま死んだ方が良くなかった?
そんな破滅的なことをチラッと思ったりもする。
「あれ……?」
お兄さんは、私の方を見て、少し驚いていた。
ちなみに、これが私が一般人であるにも関わらずヘルサレムズ・ロットを出られない理由だ。
『常春病(とこはるびょう)』
病院では私の症状をそう言われた。
『病』とついているけど、呪いの一種らしい。
私が一体いつ、これを患(わずら)ったか。それすら分からない。
『常春』との名の通り、罹患した人の周辺気温は、常に摂氏15~20度に保たれる。
それだけではなく氷や雪のたぐいは一瞬で溶け、逆に熱湯は瞬時に冷める。
『呪い』と言うには、あまりにも微妙な内容だ。
キンキンのかき氷も、熱いお風呂も楽しめなくなる程度で、もちろん誰かに感染したりもしない。
そのため解除方法は一切研究されてないらしい。