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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第1章 連れてこられました



「兄ちゃん、なあなあ、金貸してくんねえ?」

 声が聞こえ、ハッとした。物思いにふけっているうちに、ウトウトしていたらしい。
 気がつくと公園に散歩する人は、ほとんどいなくなっていた。
 早く大通りに戻らないと。

「…………」

 ベンチから立ち上がる力もない。
 本当に限界の限界なんだろうか。このままここにいたら、どんな目にあうか。

 でも、もしかしたら私を見つけた犯罪者は、お情けでパンを食べさせてくれるかもしれない。
 空腹で目が回る。頭は回らない。
 今なら一個のパンと引き換えに、何でも出来そうな自分がいた。

 これが『堕ちる』ってやつかあ……。

 でも、何でこんなことになったんだろう。
 私にお金を持たせて、病院の前に放置した人は、一体誰なんだろう……。

「おい、聞いてんのかよ、兄ちゃん!!」

 我に返った。また『落ちてた』みたいだ。私も相当キてるなあ。

「あ、ごめん。ちょっと歩きながら『落ちてた』みたいだ。
 たかが五日の徹夜で……僕も相当キてるなあ」

 ん?

 重いまぶたを開け、目の前の状況を確認する。
 私から少し離れた場所に、チンピラっぽい異界人の兄ちゃんたちが数人いる。

 彼らの前にいて、彼らに絡まれているのは、疲れ切った顔の細身の男性だった。
 しかし身長3メートルはありそうな奴らに絡まれてるのに、全く怯えた様子がない。

 けど五徹とは。下には下がいるもんだ。
 カケラも勇気づけられないけど。

「そうかそうか、そりゃ悪いなあ! というわけで、有り金全部とカードと携帯と服と靴を全部置いてってくんねえ?」
「カツアゲ通り越して、追い剥ぎだな。そういうときは『身ぐるみ全部置いていけ』って言うんだぜ?」

 あの声、さっき聞いたような。でも頭がボーッとして、思い出せん。
 お兄さんは、相変わらず怖がった様子がない。

「余裕だなあ、兄ちゃん。でも俺らなめてっと、後で痛い目見るぜぇ?」

「勘弁してくれよ。全く余裕じゃ無い。こっちはミセス・ヴェデ……じゃない、ハウスキーパーが事情あって長期休暇を取っちゃってさ。代わりったって、身元の確かな人材なんて、そうすぐ見つかるもんじゃなし。あの家を、仕事の合間を縫って僕一人で掃除、洗濯だぜ?」


 ……あのお兄さん、マジでキてるな。追い剥ぎ相手に愚痴り出したぞ。

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