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【血界戦線】番頭さんに珈琲を

第2章 告白されました



 スティーブンさんは顔を引き締め、出勤前の表情である。

「清掃用具の場所は教えた通りだ。申し訳ないが衛生面の事情からキッチン周辺は立ち入り禁止」
「はいはい」

 衛生面と言われると、私が病原菌みたいだなー。
 まあ確かに、見ようによっては『歩く食中毒発生器』だけんども。

「書斎には鍵がかかっている。これは決して君を信用してないわけではなく、ミセス・ヴェデッドのときもそうだったからね」
「了解です」
 そんな気遣いをしなくとも、私としては掃除しなくていい箇所が増えるだけありがたい。

「掃除はザッとでいいから。そこまで熱心にやらなくていいよ」
「一言一句違えず、そうさせていただきます」

「…………」
 スティーブンさん、しばし沈黙し、

「帰ったときチリ一つでも落ちていたら、おしおき」

「おしおき!?」
 おののいた後、私は首をかしげ、

「ちなみにおしおきとは、性的なものでしょうか?」
「そうしたいのは、山々なんだけどね」 
 山々なのか。

 スティーブンさんは肩をすくめ、
「話し合ったとおりだ。僕と君は純粋な関係で行こう」


 うむ。私たちは『身体の関係は無し』ということになった。


 私とスティーブンさんは色々な事情を経て、おつきあいとなった。ただし別れが前提の関係だ。
”そのとき”にスッキリ縁を絶つためにも、肉体関係はよそうという方向で落ち着いたのだ。

『まあ後学のため大人のことを知っておきたいというのなら、僕は別に――』
『ご遠慮いたしますっ!!』
 自分で自分の身体を抱きしめ、伸ばされた手を拒否った。
『はは。その方がいい。僕たちは別々の世界で生きていくんだから』

 そう笑ったスティーブンさんの顔には、何の曇りもなかった。


「それはそうと、私のお食事は? スティーブンさんがお帰りになるまで、絶食しながら長時間労働ですか?」

「人を非情な経営者みたいに言うんじゃ無い。別室に君用の食料庫を作っておいた。
 パンやペットボトル、常温保存出来る野菜や食料を置いておいたからね」

「ありがとうございます」
 さすが金持ち! 太っ腹だ!!

「流しや調理セットもあるから、料理も出来るぞ」

「え」

「…………。苦手なら、無理にしなくていいから」
 
 スティーブンさんは苦笑した。

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